ベトナムで弁護士に依頼するとき、本当に難しいのは「弁護士が見つからないこと」ではありません。「誰が何をできるのか」「費用はどう計算されるのか」「契約書に何を書くべきか」が分からないことです。本稿では、ベトナムの現行「弁護士法」の規定に沿って、日本企業がベトナムで弁護士・法律事務所に依頼する全過程を整理します。弁護士の業務範囲、法律事務所の法定形態、法律サービス契約の必須記載事項、報酬の四つの法定計算方法、そして外資クライアントが最も陥りやすい費用の誤解までを扱います。
判例から見る:ベトナムで弁護士に依頼する費用は契約書の文言どおりに執行される
破棄審決定第26/2022/DS-GĐT号(2022年6月23日・ダナン高級人民裁判所)、事件名「法律サービス契約および懸賞約束をめぐる紛争」。
依頼者夫妻と法律事務所の契約は、第4.1条の固定報酬が2,000万ドンでした。しかし第4.2条には、一定の成果が得られた場合に取得した土地の価値の2分の1を追加で支払うという条項が置かれていました。事務所の支援により依頼者が土地使用権証明書を取得すると、事務所は評価額4億ドンの半分にあたる2億ドンと残債の支払いを求めて提訴します。
裁判所は、契約が自由意思で締結され内容が法令・社会倫理に反しないとして有効と認めました。破棄審は、当事者が別途合意していた土地使用料の折半分を先に控除すべきだったとして計算を修正し、支払額を1億1,071万5,507ドンとしています。契約に定めた遅延利息条項も有効とされました。
読み取るべき点は三つです。成功報酬条項は有効に成立し裁判所も執行すること。「成果」の定義と算定基礎(何の価値の何割か、いつ時点の評価か)を書いていないと後から必ず争いになること。そして支払期限を過ぎれば、契約で定めた利率の遅延利息が積み上がることです。費用を抑える最短の道は、値段を下げることではなく条項を明確にすることです。
1. ベトナムにおける弁護士業務の法的枠組み
根拠となるのは2006年法律第65/2006/QH11号「弁護士法」であり、2012年法律第20/2012/QH13号により改正されています。この法律の三つの規定を押さえておけば、ある機関に自社の案件を任せられるかどうかを判断できます。
1-1. 弁護士の業務範囲(弁護士法第22条)
ベトナムの弁護士の業務範囲は、法律上、次の五項目として明示的に列挙されています。
- 刑事事件において、被拘留者・被疑者・被告人の弁護人となり、または被害者・民事原告・民事被告・利害関係人の権利保護人となること;
- 民事、婚姻家族、商事、労働、行政などの紛争事件において、原告・被告・利害関係人の代理人または権利保護人となること;
- 法律相談を行うこと;
- 訴訟外において依頼者を代理し、法律に関わる事務を処理すること;
- 法律に定めるその他の法律サービスを提供すること。
日本企業にとっての実務的な意味は明確です。ベトナムの弁護士資格を取得し、地方の弁護士会(Đoàn luật sư)に所属する弁護士だけが、法廷で代理人になれます。コンサルティング会社・代行業者・会計事務所は書類作成の補助はできますが、ベトナムの裁判所や仲裁廷であなたの会社を代表する権限はありません。
1-2. 法律事務所の法定形態(第32条~第34条)
ベトナムで弁護士業務を行う組織形態は、法律上、次の二種類しかありません。
- 弁護士事務所(Văn phòng luật sư):弁護士一名が設立し、私営企業の形態で運営されます。設立者が代表となり、事務所の一切の債務について自己の全財産をもって責任を負います。
- 法律会社(Công ty luật):弁護士二名以上が設立し、有限責任形態または合名形態をとります。
さらに、一名の弁護士が設立または設立に参加できる業務組織は、その所属弁護士会の所在地において一つだけと定められています。相手方が「ベトナム各地に複数の法律事務所を同時に保有している」と説明する場合は、確認する価値があります。
1-3. 外国法律事務所の境界線
弁護士法第五章は、外国の法律事務所がベトナムに支店・外国法律会社・合弁法律会社を設けることを認めていますが、その業務範囲には制限があります。ベトナムの裁判所での訴訟代理は、ベトナムの弁護士資格を有する弁護士が担当しなければなりません。そのため、越境案件では「日本の弁護士+ベトナムの弁護士」という二層構造が一般的です。前者が本社との調整と日本法を、後者がベトナム法の意見・当局対応・法廷対応を担います。
2. 依頼前に必ず確認すべき五項目
- 弁護士資格と弁護士会所属——「会社に弁護士がいる」ではなく、担当弁護士本人がどの Đoàn luật sư に所属しているかを確認する。
- 業務組織の登録情報——名称に「văn phòng luật sư」または「công ty luật」が含まれているか。名称と登録地は司法局で確認できる。
- 実際の担当者——契約時に応対したパートナーと、実際に書面を作成し当局に出向き法廷に立つ者が同一かどうかを、契約書に明記する。
- 利益相反の確認——案件の詳細を伝える前に、まず利益相反チェックを依頼する。同業他社との投資紛争では特に重要。
- 言語と書面の能力——ベトナムの裁判所・仲裁機関・行政機関が受理する正式書面はベトナム語が基準です。日本語でのやり取りは作業言語にすぎず、正式なベトナム語文書の代わりにはなりません。日本語対応の窓口担当者がいるかではなく、日越両言語で正式書面を作成できるかを確認してください。
3. 法律サービス契約:法律が定める必須記載事項
弁護士法第26条は、弁護士による法律サービスの提供は書面による法律サービス契約(hợp đồng dịch vụ pháp lý)に基づかなければならないとし、次の事項を必ず含めるよう定めています。
- 依頼者またはその代表者の名称・住所、および弁護士業務組織または個人執業弁護士の代表者;
- サービスの内容、契約の履行期間;
- 双方の権利義務;
- 報酬の計算方法と具体的な金額、および各種費用(ある場合);
- 契約違反の責任;
- 紛争解決の方法。
一見すると定型条項ですが、外資クライアントにとっては各項目がそのまま典型的なトラブルに対応しています。
- 「サービスの内容」は具体的であるほどよい。「会社設立の支援」と「投資登録証明書および企業登録証明書の取得、印章作成、税務登録の実施」は別物です。範囲が曖昧だと、その後の一つひとつの手続きが「範囲外業務」として別途請求される余地が生じます。
- 「履行期間」は事務所が管理できる時間とできない時間を分ける。書類準備は事務所の管理下ですが、所管官庁の審査期間はそうではありません。両者を分けて記載しておけば、後で責任の押し付け合いになりません。
- 「報酬の計算方法」は実際の請求基準と一致させる。時間制の案件では、計時単位、タイムシートの提供頻度、フェーズごとの想定時間も併せて合意すべきです。
- 「紛争解決の方法」を空欄にしない。外資クライアントの場合、管轄裁判所または仲裁機関と、手続言語を明示することを推奨します。
4. 弁護士費用の計算:法律が定める四つの方法
弁護士法第55条は、報酬の算定根拠と計算方法を定めています。ベトナムにおける弁護士報酬の法定枠組みであり、正規の見積りはすべてこの枠内に収まるはずです。
4-1. 三つの算定根拠
- 法律サービスの内容および性質;
- 弁護士が当該サービスの遂行に費やす時間と労力;
- 弁護士の経験と信用。
4-2. 四つの法定計算方法
| 方法 | 適する場面 | 依頼者が確認すべき点 |
|---|---|---|
| 弁護士の作業時間による計算(タイムチャージ) | 範囲を事前に確定しにくい案件:デューデリジェンス、紛争対応、複雑な交渉 | 計時単位、タイムシートの頻度、フェーズごとの想定時間 |
| 案件ごとの固定報酬 | 手続と成果物が明確な事務:会社設立、商標出願、契約書作成 | 「含まれるもの」と「含まれないもの」を項目ごとに明記 |
| 係争金額・契約金額・プロジェクト金額に対する割合 | 債権回収、金額が確定している訴訟・仲裁 | 算定基礎が「係争金額」か「実際の回収額」か、および最低報酬額 |
| 長期顧問契約による固定報酬 | ベトナムに拠点があり、法務案件が継続的に発生する場合 | 月あたりに含まれる作業量と、超過分の計算方法 |
一つだけ例外があります。第56条第1項により、弁護士が刑事事件の訴訟に参加する場合、報酬は政府が定める上限を超えてはなりません。それ以外の類型では、報酬は契約による合意で決まります。
4-3. タイムチャージの一般的な運用
ベトナム市場では、時間制の案件は次の慣行に沿って運用されます。UniLaw も同じ方式です。
- 計時単位は6分(0.1時間)、切り上げ。22分であれば0.4時間として記録します。
- 課金対象:記録の検討と分析、法令・判例・判決の調査、書面の起案と検討、依頼者および相手方との協議・交渉、国家機関・裁判所・仲裁機関との対応、期日および打合せの準備と出席。
- 課金対象外:内部管理(請求書発行、入金督促、日程調整、記録保管)、弁護士間の内部研修・打合せ、事務所側の不手際を是正する時間、および案件把握のための初回協議(通常60分を上限)。
- 移動時間:事務所所在地の市内は無償。省外への移動は時間単価の50%、往復一回あたり上限を設け、タイムシートに独立の行として記載します。
- 想定時間と事前通知:フェーズごとに想定時間を提示し、想定の約80%に達した時点で依頼者に通知します。超過してから請求書で知らせることはしません。
4-4. 見積りに通常「含まれない」費用
ここが最も誤解の生じやすい部分です。正規の見積りが示すのは弁護士サービスの報酬であり、通常は次を含みません。
- 訴訟費用、裁判所手数料、仲裁費用、申請時の国家手数料;
- 公証、認証、領事認証、翻訳の費用;
- 鑑定、評価、測量の費用;
- 省外および国外への出張・宿泊費;
- 大量の郵送・複写;
- 専門家または外部弁護士の費用。
妥当な運用は、実費は領収書に基づき実額で精算し、上乗せをしないこと。そして一定額を超える支出は、事前に依頼者の書面またはメールによる同意を得てから発生させることです。
4-5. 渉外要素が費用に影響する理由
外国投資家・外国当事者・外国の書類・外国法の適用が関わる案件では、基本報酬に30%~50%を加算するのが市場慣行です。これは「外資割増」ではなく、実際に増える作業に対応するものです。二言語の記録と往復、領事認証、公証翻訳、司法共助、通訳、そして依頼者のタイムゾーンに合わせた稼働です。なお、米ドル建てで提示された金額には、この加算が既に織り込まれているのが通常であり、二重に計算すべきではありません。
また、通常の半分以下の期間での完了を求める特急案件には、一般に30%~50%が加算されます。
4-6. 税・支払・見積りの有効期間
- 報酬は通常付加価値税を含まない専門家報酬として提示され、請求書は支払ごとに発行されます;
- 固定報酬案件は契約時50%、完了時または合意したマイルストーン時に50%が一般的;
- 時間制案件は回転式の前受金——残高が合意した下限を下回った時点で、更新したタイムシートとともに追加の前受金を請求します;
- 米ドル建ての報酬は、請求書発行日の銀行売レートでベトナムドンに換算して支払われます;
- 見積りには通常有効期間(発行日から30日など)があり、経過後は再確認が必要です。
5. 依頼の三つの形、それぞれが適する場面
| 単発の法律相談 | プロジェクト単位の委任 | 顧問契約 | |
|---|---|---|---|
| 典型的な場面 | ある計画が実行可能か、ある契約書のリスクはどこかを判断したい | 会社設立、M&A、商標出願、一件の訴訟または仲裁 | ベトナムに工場や子会社があり、労務・契約・税務が継続的に発生する |
| 一般的な費用 | タイムチャージ | 案件固定報酬、または固定報酬+フェーズ別 | 月額または年額の固定報酬 |
| 利点 | 投入が最小。決断の前に足元を固められる | 予算が読める。成果物が明確 | 反応が速い。自社の事業と過去の書類を把握している |
| 制約 | 書面作成や対外的な代理は含まない | 範囲外の事項は別途計算 | 月あたりの作業量の合意が必要 |
初めてベトナム市場に進出する日本企業にとって現実的な道筋は、まず的を絞った相談で方針を固め、次にプロジェクト単位で実行を委任し、ベトナム法人が動き出した後に顧問契約へ移行するという順序です。
6. 日本企業の依頼が集中する三つの分野
6-1. 就労ビザと労働許可証
日本人駐在員の派遣で最初に直面するのが、労働許可証(ワークパーミット)と滞在資格の手続です。実務上の要点は三つあります。
- 手続の順序を崩さない。外国人労働者需要の事前説明・承認、労働許可証の申請、そしてビザ・一時在留証(TRC)は連なった手続です。順序を飛ばすと、後の段階でやり直しになります。
- 日本側書類の認証チェーン。学歴証明、職務経歴証明、犯罪経歴証明などは、公証・領事認証・ベトナム語翻訳を経る必要があります。所要日数を最も過小評価しやすいのがこの部分です。
- 許可証の有効期間と更新時期。更新は期限直前ではなく、余裕をもって着手します。失効させると、いったん新規扱いに戻ることがあります。
6-2. 会社設立と投資手続
外国投資家によるベトナムでの法人設立は、二つの登録の連結が中心です。
- 投資登録証明書(IRC)——投資プロジェクトそのものについて、投資家・目的・規模・実施場所を確定するもの;
- 企業登録証明書(ERC)——法人という主体について、商号・法定代表者・定款資本・事業範囲を確定するもの。
両証取得後も、印章の作成、税務登録とインボイス関係、投資資本口座および取引口座の開設、出資の履行が必要です。条件付き事業分野であれば、別途の事業条件許可が全体の日程を左右します。
日本企業がつまずきやすい点は次の三つです。事業範囲がベトナムの業種分類と対応していない;本社書類の認証チェーンが不完全;登記上の住所と賃貸借契約・実際の事業場所が一致していない。
6-3. 労務管理と労働紛争
ベトナムの労働法は、労働者保護の色彩が日本より強い場面があります。特に一方的な労働契約の解除には、事由・手続・予告期間のすべてに厳格な要件があり、一つでも欠けると手続違反と評価されうるため、解除の前に必ず法的確認を行うべきです。就業規則、賃金・時間外労働の制度、労働契約の各書面が整っていることは、労働監督でも労働紛争でも決定的な証拠になります。
7. 弁護士費用を相手方に負担させられるか
日本企業から最も多い質問の一つです。答えは場合分けになります。
- 契約に定めがある場合:商事契約において、違約した当事者が、権利実現のために相手方が支出した合理的費用(弁護士費用を含む)を負担する旨を定めることができます。ベトナムの商事実務では広く用いられていますが、費用が現実に発生し、正式な請求書と支払証憑があり、金額が合理的であることが求められます。
- 契約に定めがない場合:弁護士費用を実損害として併せて請求できるかは、事件類型と立証状況によって左右され、ベトナムの各級裁判所の判断は必ずしも一致していません。したがって、契約の起案段階で費用負担条項を入れておくほうが、事後に争うより確実です。
- 訴訟費用・手数料:弁護士費用とは別のものであり、訴訟費用に関する規定に従って裁判所が判決で負担を定めます。
実務上の助言として、契約締結の日から法律サービス契約・請求書・支払証憑・項目別のタイムシートを完全に保存してください。いずれかが欠ければ、相手方から「費用の真実性と合理性が立証されていない」と反論される余地を残します。
8. よくある質問
ベトナムで弁護士に依頼する際、必ず書面契約が必要ですか。
必要です。弁護士法第26条は、法律サービスを書面の法律サービス契約に基づいて提供するよう求め、必須記載事項も定めています。口頭の委任は、紛争が生じたときにどちらの側も守りません。
日本の法律事務所がベトナムの訴訟を直接代理できますか。
法廷での直接代理はできません。ベトナムの裁判所および仲裁手続における代理は、ベトナムの弁護士資格を有する者が担当する必要があります。日本の弁護士とベトナムの弁護士が、それぞれ自国法の部分を担う形が一般的です。
費用は一括の固定額にできますか。
手続と成果物が明確な事務であれば、案件固定報酬が可能です。一方、範囲を事前に確定できない紛争案件では、タイムチャージ+フェーズ別の想定時間のほうが双方にとって公平です。この類型で固定額を提示すると、弁護士が読めないリスクを負うか、依頼者が発生しなかった作業に支払うかのどちらかになります。
渉外案件はなぜ高いのですか。
実際の作業量が増えるためです。二言語の記録、領事認証、公証翻訳、司法共助、通訳、時差をまたぐ稼働。市場慣行の加算幅は30%~50%で、米ドル建ての見積りには通常すでに含まれています。
初回の相談は有料ですか。
案件の把握と受任可否の判断のための初回協議は、通常は無償です(一般に60分を上限)。法的分析、方針設計、書面の検討に入った時点から課金対象となります。
支払後、いつから着手しますか。
固定報酬案件は初回入金と利益相反チェックの完了後、時間制案件は前受金の入金後に着手します。緊急案件では先行着手も可能ですが、範囲を書面で確認することが前提です。
相談だけを単発で依頼できますか。
できます。投資ストラクチャーの選択、ある事業に許可が必要か、ある契約書のリスク——判断に属する問題の多くは、準備を整えた一度の相談で解決します。書類と質問リストを事前にお送りいただければ、課金対象時間を短縮できます。
見積りが妥当かどうか、どう判断すればよいですか。
総額だけを比べないことです。比べるべきは三点、範囲が明記されているか、計算方法が法定の四方式のいずれかか、どの費用が含まれていないか。三つとも明確な見積りは、漠然とした安値より結果的に安くつきます。
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