ベトナム会社設立の手続は、2025年から2026年にかけて土台から変わりました。投資法第143/2025/QH15号が2026年3月1日に施行され、旧投資法第61/2020/QH14号は置き換えられています。企業登記についても、政令第168/2025/NĐ-CP号(2025年6月30日)が新たな根拠となりました。2024年以前に書かれた設立ガイドの手順は、そのままでは通用しません。本稿は現行法の条文に基づいて、日系企業が実際に踏む手順を整理したものです。
判例から見る:ベトナム会社設立で個人口座に送金しても出資にはならない
商事控訴審判決第41/2019/KDTM-PT号(2019年7月26日・高級人民裁判所。第一審は第04/2018/KDTM-ST号、2018年8月17日・ビンズオン省人民裁判所)は、名義を借りて出資しようとした投資家がどうなるかを示した一件です。
海外在住の個人が、株式会社の設立に出資するつもりで共同設立者の個人口座へ13億4,470万ドンを送金しました。のちに発行された出資証明書(第01/GCNGV号、2010年5月10日付)を根拠に、発行済株式の25%にあたる15万株の株主であることの確認を求めて提訴しました。
裁判所が指摘したのは次の点です。送金の前後を通じて設立者らとの間に出資に関する合意書が一切なかったこと。送金額(13億4,470万ドン)が出資証明書の記載額(15億ドン)と一致しないこと。出資証明書が作成されたのは送金から6年以上後の2016年であること。株式は別人の名義で登録されており、その名義人は「持分は自分のものであり、原告を知らない」と述べ、名義借りの合意も証明されなかったこと。
結果は請求の全部棄却で、さらに反訴により5億9,795万2,000ドンを会社へ返還するよう命じられました。裁判所は、送金相手の個人に対して別途返還請求はできると付言しています。
ベトナムに投資する日系企業への含意は三つです。出資金は会社の投資資本口座へ入れること。名義を借りるなら書面で合意し、相手が認める状態にしておくこと(それでも権利は脆弱です)。そして株主としての地位は、送金の事実ではなく登記と株主名簿で決まることです。
1. ベトナム会社設立は外国投資家なら二段階
- 投資登録証明書(IRC / Giấy chứng nhận đăng ký đầu tư) — 投資プロジェクトそのものの許可
- 企業登記証明書(ERC / Giấy chứng nhận đăng ký doanh nghiệp) — 法人の設立登記
投資法第26条第1項は、外国投資家の投資プロジェクトおよび同法第20条第1項に定める経済組織の投資プロジェクトについて、IRCの取得を義務づけています。国内投資家のプロジェクトや、既存企業への出資・株式取得・持分取得による投資は、IRCの対象外です(第26条第2項)。第29条第2項は、IRCの対象となるプロジェクトについてプロジェクトを実施する前にIRCを取得する義務を明記しており、「先に会社を作って後から投資登録」という順序は取れません。
2. 市場アクセス条件を最初に確認する
設立可否を左右する最初の関門は事業分野です。投資法第8条は、外国投資家には原則として国内投資家と同じ市場アクセス条件が適用されるとしつつ、政府が外国投資家の市場アクセス制限業種リストを公表するとしています。このリストは二層構造です。
- 未開放業種 — 外国投資家が参入できない分野
- 条件付き開放業種 — 条件を満たせば参入できる分野
条件の内容は、外国投資家の出資比率、投資形態、活動範囲、投資家の能力、パートナーの要件などです(第8条第3項)。日系企業が実務で最も多くつまずくのは出資比率の上限と活動範囲の限定で、流通、物流、広告、教育などの分野では、WTO加入時のサービス約束表が実質的な判断基準になります。なお、第8条および付属書IVの条件付き投資経営業種リストは2026年7月1日から施行されます(第51条第2項)。移行期の案件では、どちらのリストで審査されるかを確認する必要があります。
3. 2026年の目玉:工業団地等における「特別投資手続」(第28条)
新投資法で日系製造業に最も影響が大きいのが第28条の特別投資手続です。工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中デジタル技術区、自由貿易区、国際金融センター、経済区内の機能区におけるプロジェクトについて、投資家はこの手続を選択できます(政府が投資方針承認を要すると定める案件を除く)。この手続を選んだ場合、次の手続が不要になります(第28条第2項)。
- 投資方針の承認
- 技術審査
- 環境影響評価報告書の作成
- 詳細計画の策定
- 建設許可の取得
- 建設・消防分野における各種の承認・許可
代わりに投資家は、建設・環境保護・消防に関する法令上の条件・基準・規格を満たす旨の誓約書を提出し、環境への影響の特定・予測と緩和策を含む投資提案書を作成します。事前審査を事後責任に置き換える設計です。工業団地に工場を建てる案件では、この選択によって着工までの期間が大きく変わります。ただし誓約に反した場合の責任は投資家に返ってくるため、「速いから選ぶ」のではなく、社内の遵法体制が誓約を支えられるかで選ぶべき制度です。
4. 企業登記証明書(ERC)
ERCの発給要件は企業法第27条第1項に定められています。
- 登記する事業分野が投資経営を禁止されていないこと
- 企業名が企業法第37条・第38条・第39条・第41条に適合していること
- 企業登記書類が適法であること
- 登記手数料を納付していること
申請は、直接持参、郵便、または企業登記国家情報ポータルを通じたオンラインのいずれかで行えます(企業法第26条第1項)。オンライン申請の書類は紙の書類と同等の法的効力を持ちます(第26条第2項)。政令第168/2025/NĐ-CP号第33条は、企業がERCの交付を受けた日から事業活動を行う権利を有すると定めています。ただし条件付き事業分野の場合はこの限りではなく、別途の事業条件を満たす必要があります。書類に不備があった場合、登記機関は修正・補充を求める通知を出します。企業が修正書類を提出できる期間は通知日から60日で、これを過ぎると申請自体が失効し、システム上で削除されます(政令第168/2025号第32条第3項)。放置すると最初からやり直しになります。
5. 設立後にすぐ発生する義務
| 項目 | 内容 |
| 税務登録・電子インボイス | 税務管理法第108/2025/QH15号に基づく登録、電子インボイスの発行体制 |
| 銀行口座 | 投資資本口座と運転資金口座の区別。出資金は投資資本口座を通す必要がある |
| 出資の履行 | 定款資本の払込期限。期限内に払い込まないと減資登記が必要になる |
| 労務 | 就業規則の登録、労働契約、社会保険の加入 |
| 外国人幹部 | 労働許可証または免除確認書。政令第219/2025/NĐ-CP号に基づく |
| 事業条件 | 条件付き分野の場合、サブライセンスの取得 |
日系企業でとくに多いのが、出資金を運転資金口座に振り込んでしまうという初歩的な事故です。投資資本口座を経由していない資金は出資として認められず、後の増資や利益送金の段階で問題になります。
6. ベトナム会社設立でよくある失敗
- 旧投資法(61/2020号)の手順で計画を組む — 2026年3月1日以降は新投資法が適用されます。
- 事業分野を後から追加できると考える — 条件付き分野の追加はIRCの調整を伴い、審査がやり直しになることがあります。
- 出資比率の上限を確認せずに合弁契約を締結する — 契約書の比率が市場アクセス条件に反していれば、登記段階で止まります。
- 60日の補正期限を見落とす — 申請が失効し、書類一式を作り直すことになります。
- 駐在員の在留手続を設立と切り離して考える — 出資額30億ドン以上の出資者は労働許可証が免除されるため、設立時の資本構成が労務手続の量を決めます。
7. ベトナム会社設立についてのUnilawのサポート
Unilawは、事業分野の市場アクセス可否の確認から、IRC・ERCの申請、定款・合弁契約の作成、設立後の税務・労務・在留手続の立ち上げまで、一連の流れをまとめて扱っています。設立は「登記が下りれば終わり」ではなく、その後10年の税務・労務・撤退のしやすさが、設立時の設計で決まります。
本稿は2026年9月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別案件についての法的助言ではありません。引用法令:投資法第143/2025/QH15号(2026年3月1日施行)、企業法第59/2020/QH14号(2025年6月17日改正)、政令第168/2025/NĐ-CP号、政令第219/2025/NĐ-CP号。


