ベトナムの税制は2025年から2026年にかけて大きく書き換えられました。法人税法、付加価値税法、個人所得税法、税務管理法のいずれもが新法に置き換わっており、2024年以前の解説記事に書かれている税率・控除額・申告ルールは、そのままでは使えません。本ガイドは、現在施行されている法律の条文に基づいて、ベトナムに進出する日系企業が押さえるべき税務の骨格を整理したものです。
判例から見る:ベトナム税務では、発行した請求書の税額が意図と無関係に発生する
破棄審決定第01号(2023年2月10日・ダナン高級人民裁判所。商事控訴審判決第03/2022/KDTM-PT号、2022年5月11日・ザライ省人民裁判所を維持)は、税務の相談で最も多い誤解を正面から扱っています。
建設請負人が発注者のために請求書を発行しましたが、その発行は発注者が銀行から融資を引き出すためのものでした。両者は2018年2月27日付の合意書と2月24日付の「精算対照表」で、その請求書から生じる付加価値税10%と法人税3%は発注者が負担すると取り決めています。実際には請負人が11億0,742万5,000ドンの付加価値税・法人税を納付し、控訴審段階で税務当局の「税の未納なし」証明書(2021年11月29日付)を提出しました。
裁判所は、請負人が発注者に代わって納税した事実を認め、発注者に同額の返還と遅延利息の支払いを命じました。利息は当事者が契約で合意した月0.92%で、2018年2月24日から第一審判決日(2021年9月30日)までの1,311日分、4億4,522万9,147ドンに上ります。破棄審は検察の抗議を認めず、控訴審判決を維持しました。
教訓は明確です。「銀行対応のための請求書」でも税額は現実に発生します。誰が最終的に負担するかは書面の合意で決まり、立替えた側が回収するには税務当局の証明という客観的な裏づけが要ります。そして回収までの利息は、契約書に書いた利率でそのまま積み上がります。
1. ベトナム税務でいま適用されている法律はどれか
| 税目 | 現行法 | 施行日 |
| 法人税 | 法人税法第67/2025/QH15号 | 2025年10月1日(2025年度の課税期間から適用) |
| 付加価値税 | 付加価値税法第48/2024/QH15号(第149/2025/QH15号により改正) | 2025年7月1日 |
| 個人所得税 | 個人所得税法第109/2025/QH15号 | 2026年7月1日 |
| 税務管理 | 税務管理法第108/2025/QH15号 | 2026年7月1日 |
さらに2026年4月24日の法律第09/2026/QH16号が、個人所得税法・付加価値税法・法人税法・特別消費税法の一部を改正しています。実務では、案件の発生時点でどの法律が適用されるかを必ず確認する必要があります。
2. 法人税(TNDN)
新法人税法第10条は、税率を売上規模に応じて三段階に分けました。これは旧制度からの実質的な変更点です。
| 年間総売上 | 税率 |
| 30億ドン以下 | 15% |
| 30億ドン超〜500億ドン以下 | 17% |
| 上記以外(原則) | 20% |
税率の判定に使う売上は直前の課税期間の総売上です(第10条第3項)。設立初年度や売上が境界線をまたぐ年は、適用税率が変わるため事前の試算が必要です。石油・ガスや希少資源の採掘など、別途の税率が定められている業種もあります(第10条第4項)。
投資優遇(第13条)による優遇税率は別枠で、優遇分野・優遇地域・投資規模の要件を満たす場合に適用されます。日系製造業の工業団地案件では、この優遇の可否が投資判断そのものを左右します。優遇は「あとから申請するもの」ではなく投資登録の段階で設計するものである点に注意してください。
3. 付加価値税(VAT)
付加価値税法第9条は税率を0%・5%・10%の三段階としています。
- 0% — 輸出貨物、非関税地域向けの一定の取引など
- 5% — 生産・生活用の清浄水、肥料など法定の品目
- 10% — 上記以外のすべて
日系企業の実務で見落とされやすいのが、第9条第3項で「ベトナムに恒久的施設を持たない外国供給者が電子商取引チャネルを通じてベトナムの組織・個人に提供するサービス」も10%の対象とされている点です。本社が日本からクラウドサービスやライセンスをベトナム法人に提供している場合、この規定と外国契約者税の枠組みの両方を確認する必要があります。輸出取引の0%適用は、契約・通関書類・銀行を通じた支払という三点セットが揃って初めて認められます。書類の不備で0%が否認され、10%を追徴されるのは、実務で最も多い税務調査の指摘事項のひとつです。
4. 個人所得税(PIT)
駐在員の課税は、まず居住者か非居住者かで分かれます。個人所得税法第2条第2項によれば、居住者とは次のいずれかを満たす個人です。
- 暦年で183日以上、または初日から連続12か月で183日以上ベトナムに滞在している
- ベトナムに常住の場所がある(登録された常住地、または賃貸契約による住居)
居住者はベトナム国内外で生じた課税所得が、非居住者はベトナム国内で生じた課税所得が課税対象です。日本本社から支給される給与部分も、居住者であればベトナムでの申告対象に含まれます。ここを整理しないまま駐在を始めると、後から数年分をまとめて修正申告することになります。
居住者の給与所得には、第9条の累進税率が適用されます。
| 等級 | 年間課税所得(百万ドン) | 月額課税所得(百万ドン) | 税率 |
| 1 | 120まで | 10まで | 5% |
| 2 | 120超〜360 | 10超〜30 | 10% |
| 3 | 360超〜720 | 30超〜60 | 20% |
| 4 | 720超〜1,200 | 60超〜100 | 30% |
| 5 | 1,200超 | 100超 | 35% |
家族控除は第10条により、本人が月1,550万ドン(年1億8,600万ドン)、扶養者一人あたり月620万ドンです。課税所得の計算では、社会保険・医療保険・失業保険の拠出額などを差し引いたうえで、この家族控除を適用します(第8条第2項)。
5. ベトナム税務の調査で問題になりやすい論点
- 本社との取引価格 — ロイヤルティ、経営指導料、出向者費用の付け替えは、関連者間取引として文書化を求められます。契約書がない、または実態と一致しない場合、損金算入が否認されます。
- 外国契約者税 — 日本本社や第三国の業者がベトナム国内で役務を提供した場合、ベトナム側に源泉徴収義務が生じます。支払時点で処理しないと、後から本体負担になります。
- 損金算入の形式要件 — 適法な請求書、契約、銀行送金の三点が揃わない支出は、実態があっても否認されます。現金決済の上限にも注意が必要です。
- 駐在員の二重課税 — 日越租税条約の適用は自動ではありません。居住者証明などの書類を揃えて初めて認められます。
6. ベトナム税務についてのUnilawのサポート
Unilawは、法人設立時の税務登録から、月次・年次の申告体制の設計、関連者間取引の文書化、税務調査への対応、追徴処分に対する不服申立てまでを扱っています。税務は「申告のときに考えるもの」ではなく、契約書の文言と会社の仕組みで決まるものです。契約を締結する前の段階でご相談いただくのが最も効果的です。
本稿は2026年9月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別案件についての法的助言ではありません。引用法令:法人税法第67/2025/QH15号、付加価値税法第48/2024/QH15号(第149/2025/QH15号による改正)、個人所得税法第109/2025/QH15号、税務管理法第108/2025/QH15号、法律第09/2026/QH16号。
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