ベトナムに駐在員や技術者を送る日系企業にとって、労働許可証(Giấy phép lao động)は事業計画そのものを左右する手続です。2025年8月7日に施行された政令第219/2025/NĐ-CP号により、外国人労働者に関する手続は根本的に組み替えられました。従来の政令第152/2020/NĐ-CP号(政令第70/2023/NĐ-CP号による改正を含む)の外国人労働者に関する規定は、この新政令に置き換えられています。本ガイドは、新政令の条文に基づき、実務で必要な期限・書類・落とし穴を整理したものです。
判例から見る:出向者の労働許可証は「誰の従業員か」で守られ方が変わる
労働事件控訴審判決第01号(2025年8月18日・最高人民裁判所ホーチミン市控訴法廷。第一審は第07/2024/DS-ST号、2024年6月4日・ホーチミン市人民裁判所)は、外国人を出向で送る企業がまず読むべき一件です。
台湾の親会社から在ベトナム子会社へ出向していた従業員が、子会社と毎年締結していた労働契約を根拠に、賃金・退職手当・違法解雇の賠償など総額約33億8,840万ドンを請求し、あわせて労働許可証と一時在留許可証の取消通知の無効と再取得を求めました。子会社は、毎年の労働契約は労働許可証の申請書類に労働契約が必要だから締結していたものであり、実質的な労働関係は親会社との間にあると主張しました。
裁判所は、出向元との2011年の労働契約、給与が親会社から本人口座へ支払われていた事実、親子間で給与の立替払いを取り決めた協力契約(2019年11月20日付)などから子会社の主張を認め、台湾の裁判所が帰任命令を適法と判断していたことも踏まえて、請求をすべて棄却しました。控訴も認められていません。
実務上の含意は二つです。第一に、労働許可証を取るためだけに結んだ形式的な労働契約でも、紛争になれば実体で判断されます。第二に、子会社が勝てたのは出向指示書・給与負担の合意・送金記録という書面が揃っていたからであり、これらが欠けていれば結論は逆になり得ました。労働許可証の申請と更新は、行政手続であると同時に、この三点の整合性を毎年点検する機会でもあります。
1. 2025年8月7日から何が変わったのか
| 項目 | 旧制度(政令152/2020号) | 新制度(政令219/2025号) |
| ベトナム人の求人公告 | 報告日の15日前まで | 申請書提出の5日前まで |
| 需要説明報告 | 独立した事前手続 | 申請書類に統合(様式第03号) |
| 申請の提出時期 | 就労開始の15日前まで | 就労開始前60日以内、かつ10日前まで |
| 許可証の発給 | 5営業日 | 10営業日 |
| 提出窓口 | 省の労働当局 | 地方行政サービスセンターおよび国家公共サービスポータル |
需要説明報告が申請書類に統合された点(第18条第1項)は、日系企業にとって最も大きな実務上の改善です。従来は「需要報告の承認を待ってから申請」という二段階でしたが、新制度では一つの手続にまとまりました。一方で、発給期間が5営業日から10営業日に延びている点には注意が必要です(第22条第3項)。
2. 労働許可証が不要な人(第7条)
すべての外国人に労働許可証が必要なわけではありません。新政令第7条は免除対象を列挙しており、日系企業の実務で特に使われるのは次の類型です。
- 労働法第154条第3項から第8項に該当する場合
- 有限責任会社の所有者または出資額30億ドン以上の出資者
- 株式会社の取締役会長、または出資額30億ドン以上の取締役会構成員
- ODA事業に関する専門・技術コンサルティング等のために入国する者
- 許可を得て活動する外国人記者
出資額30億ドンという基準は、駐在員を「出資者」として登録するか「被用者」として登録するかで手続の重さが変わることを意味します。会社設立の段階で決めておくべき論点です。
免除に該当する場合でも、手続がゼロになるわけではありません。免除確認書(Giấy xác nhận không thuộc diện cấp giấy phép lao động)の発給には書類受理から5営業日を要し(第10条第3項)、確認書が不要な一部の類型でも就労開始の3営業日前までに所管機関への通知が必要です。免除確認書の有効期間は最長2年です。
3. 申請の前にやること:ベトナム人向け求人公告
新政令では、労働許可証の発給および更新にあたり、申請書提出日の少なくとも5日前までに、労働法第11条第1項に基づきベトナム人労働者向けの求人公告を行っていることが条件とされています。公告には職位(具体的な職務・分野)、必要人数、条件、給与、勤務時間・場所などの基本情報を記載します。この5日という日数は旧制度の15日から短縮されましたが、公告を出し忘れると申請自体が受理されないため、実務では着任日から逆算した工程表の最初の一手として管理すべきです。
4. 申請書類(第18条)
- 使用者による外国人労働者の使用需要説明報告および労働許可証発給申請書(様式第03号)
- 健康診断書。医療情報システムまたは国家医療データベースに接続・共有されている場合は不要。外国の医療機関が発行した診断書は、相互承認の取決めがある場合に限り、発行日から12か月以内のものが有効
- 有効期間内の旅券
- 犯罪経歴証明書
- カラー写真2枚(4cm×6cm、白背景、正面、脱帽、眼鏡なし)
- 管理者・執行役員・専門家・技術労働者であることを証する書類(第19条)
第19条は、管理者であることの証明として定款および管理者であることを示す書類、または企業法第4条第24項に定める管理者ポストへの任命・異動に関する文書を求めています。執行役員については、支店・駐在員事務所・事業所の登録証明書または定款が用いられます。ここでの「肩書」は、本国での呼称ではなくベトナムの登記・定款上の地位で判断されるため、日本本社の役職名だけでは足りない場合があります。
5. 手続の流れと日数(第22条)
- 就労開始予定日の60日以内、かつ10日前までに、使用者が申請書類を提出します。提出先は外国人労働者が就労する地方の行政サービスセンターです。直接持参、公益郵便、サービス業者への委託、代理人による提出のいずれも可能です。
- 行政サービスセンターが、ワンストップ制度および国家公共サービスポータルを通じて所管機関に書類を回送します。
- 所管機関は、完全な書類を受理した日から10営業日以内に労働許可証を発給します。
第6条により、申請は国家公共サービスポータルでのオンライン提出が原則とされています。犯罪経歴証明書についても、労働者の委任に基づき労働許可証の申請と併せてオンラインで請求する仕組みが設けられています。工程を逆算すると、求人公告5日+書類準備+審査10営業日で、最短でも3週間から1か月を見込む必要があります。健康診断書や犯罪経歴証明書、本国書類の領事認証(第5条)に時間がかかる場合は、さらに余裕が必要です。
6. 有効期間・再発給・更新
| 項目 | 内容 | 根拠 |
| 有効期間 | 労働契約等の期間に応じ、2年を超えない | 第21条 |
| 再発給後の期間 | 元の許可証の残存期間 | 第26条 |
| 更新申請の時期 | 満了日の45日前から10日前まで | 第28条第1項 |
| 更新の処理期間 | 10営業日 | 第28条第3項 |
| 更新の回数 | 1回限り、最長2年 | 第29条 |
更新が1回限りである点は、駐在員の任期設計に直結します。更新後の2年が満了した後も就労を継続させる場合は、新規発給の手続をやり直すことになります。任期を4年超で計画している企業は、着任の時点でこの構造を織り込んでおく必要があります。再発給(第23条)の対象は、有効期間内の許可証の紛失・毀損、および氏名・国籍・旅券番号などの記載事項の変更です。勤務地や職位の変更は再発給ではなく新規発給が必要な場合があり(第20条)、社内異動の設計を誤ると空白期間が生じます。
7. 就労ビザ・一時在留許可証との関係
労働許可証は「働いてよい」という労働法上の許可であり、「滞在してよい」という出入国管理上の許可とは別物です。実務では、労働許可証を取得したうえで就労ビザに切り替え、さらに一時在留許可証(Thẻ tạm trú)を申請するという流れになります。労働許可証の有効期間が在留許可の上限を規定するため、労働許可証の残存期間が短いと在留カードも短くしか出ません。更新のタイミングを誤ると、在留手続の側で連鎖的に不利益が生じます。出入国・在留の要件は出入国管理に関する法令で定められており、労働法令とは所管も改正時期も異なるため、個別案件では両方を同時に確認することをお勧めします。
8. よくある失敗
- 旧政令の日数で工程を組む — 2025年8月7日以降は発給が10営業日です。5営業日前提の計画は着任日に間に合いません。
- 求人公告を飛ばす — 5日前までの公告は発給・更新の条件です。後から追完できません。
- 更新を1回限りと知らずに任期を設計する — 4年目以降は新規申請になります。
- 本社の役職名で「管理者」と主張する — ベトナム側の定款・登記・任命書で裏づける必要があります。
- 出資額30億ドンの免除を口頭で確認して済ませる — 免除でも確認書または事前通知の手続が残ります。
9. Unilawのサポート
Unilawは、労働許可証・免除確認書の申請から、就労ビザ・一時在留許可証、労働契約、就業規則の登録、社会保険の加入まで、外国人雇用に伴う手続を一括して扱っています。会社設立の段階から関与することで、駐在員を出資者として登録するか被用者として登録するかを含め、手続の総量そのものを設計できます。
本稿は2026年9月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別案件についての法的助言ではありません。引用法令:労働法第45/2019/QH14号、政令第219/2025/NĐ-CP号(2025年8月7日施行)。
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