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労働法 · 30.08.2026

ベトナム労働法における雇用契約の法的実務分析:紛争回避のための重要指針と裁判例解説

ベトナムで事業を展開する日本企業にとって、労働者との権利義務関係を規定する雇用 契約は、労務管理の根幹を成す最も重要な法的文書です。2019年労働法(第45/2019/QH14号)の施行により、雇用形態の柔軟性が増した一方で、労働者の権利保護が強化され、企業側にはより厳格な手続きの履行が求められるようになりました。法的な不備を含む契約書の作成や不適切な解雇手続きは、多額の損害賠償支払いや行政処分の対象となるだけでなく、企業の社会的信用の失墜を招くリスクを孕んでいます。本稿では、ベトナム労働法および関連政令に基づき、適正な契約実務のポイントを最新の判例と共…

作者:admin_jp阅读时间: 10 min
雇用 契約

ベトナムで事業を展開する日本企業にとって、労働者との権利義務関係を規定する雇用 契約は、労務管理の根幹を成す最も重要な法的文書です。2019年労働法(第45/2019/QH14号)の施行により、雇用形態の柔軟性が増した一方で、労働者の権利保護が強化され、企業側にはより厳格な手続きの履行が求められるようになりました。法的な不備を含む契約書の作成や不適切な解雇手続きは、多額の損害賠償支払いや行政処分の対象となるだけでなく、企業の社会的信用の失墜を招くリスクを孕んでいます。本稿では、ベトナム労働法および関連政令に基づき、適正な契約実務のポイントを最新の判例と共に詳細に分析します。

【法令更新のお知らせ】本稿が当初引用していた法令は、下表のとおり新しい法令に置き換わっています。本文中の引用は現行法に更新済みです。

  • 旧政令第152/2020/NĐ-CP号(政令第70/2023/NĐ-CP号による改正を含む) → 政令第219/2025/NĐ-CP号(2025年8月7日施行)

現行法に基づく手続・期限・条文の全体像は ベトナムの労働許可証・就労ビザ完全ガイド(政令219/2025号対応) にまとめています。

1. 雇用 契約(労働契約)の法的定義と成立要件

ベトナム労働法第13条1項によれば、労働契約(雇用 契約)とは「労働者と使用者との間で行われる、賃金を支払う仕事、賃金、労働条件、および各当事者の権利と義務に関する合意」と定義されています。ここで実務上極めて重要なのは、文書の名称が「雇用契約」でなくても、仕事の内容、報酬、および一方の当事者による管理・監督・監視が含まれる場合は、法的に労働契約とみなされるという点です。これにより、業務委託契約やコンサルティング契約といった名目であっても、実態が雇用関係にある場合は労働法の保護対象となります。

契約の形式に関する法的義務

原則として、は書面で作成され、各当事者が1部ずつ保持しなければなりません(第14条)。ただし、1ヶ月未満の短期契約については口頭での合意も認められますが、紛争防止の観点からは推奨されません。また、電子署名法に基づき、データメッセージの形式で締結された電子契約も、書面契約と同等の法的価値を有することが明文化されました。これはリモートワークが普及する現代の実務において重要な進展です。

2. 2019年労働法が定める契約の種類と移行ルール

現行法第20条に基づき、契約の種類は以下の2つに集約されました。

  • 無期限労働契約:当事者双方が契約期間および終了時期を定めない契約。
  • 有期限労働契約:36ヶ月を超えない範囲で期間を定める契約。

実務上の最大の留意点は、有期限契約の更新回数です。有期限契約が満了し、労働者が引き続き就労する場合、30日以内に新しい契約を締結しなければなりません。この期間内に新契約が締結されない場合、元の有期限契約は自動的に無期限契約、または一定の条件で24ヶ月の有期限契約へと移行します(第20条2項)。有期限契約を連続して締結できるのは原則2回までであり、それ以降も雇用を継続する場合は無期限契約を締結する義務が生じます。この移行ルールを軽視し、期間満了を理由に安易に契約を終了させた結果、不当解雇と判断される事例が後を絶ちません。

判例分析:有期限契約の連続締結(判決番号:09/2021/LĐ-PT)

2021年11月17日、ホーチミン市高等人民裁判所は、短期の有期限契約を3回連続で締結し、3回目の満了時に契約を終了させた企業に対し、3回目の契約締結時点ですでに法理上無期限契約に移行していたと判断しました。企業側は期間満了による正当な終了を主張しましたが、裁判所は無期限契約としての手続き(正当な理由の提示と事前通知)を欠いているとして、違法な解除を認定し、多額の賠償を命じました。この事例は、形式的な契約期間よりも法の強行規定が優先されることを示しています。

3. 契約書に記載すべき必須事項と実務上の工夫

労働法第21条および通達第10/2020/TT-BLDTBXH号に基づき、雇用 契約には以下の項目を網羅しなければなりません。不足がある場合、契約が一部無効とされるリスクがあります。

  • 使用者の名称、住所、代表者の氏名・役職。
  • 労働者の氏名、生年月日、住所、身分証明書番号。
  • 職務内容および勤務地。
  • 契約期間。
  • 賃金額、支払形態、支払時期、各種手当。
  • 昇給・昇進制度。
  • 労働時間および休憩時間。
  • 労働安全衛生、個人用保護具の提供。
  • 社会保険、医療保険、失業保険の加入義務。
  • 研修、職業技能の向上に関する事項。

特に、機密保持や競業避止に関しては第21条2項に基づき、知的財産や営業秘密の保護、および違反時の賠償について別途書面で合意することが認められています。技術漏洩を防ぐためには、を通じて、これらの条項を企業の実態に合わせて戦略的に設計することが不可欠です。

4. 試用期間の法的性質と判例第20/2018/AL号の適用

試用期間については、職務の複雑さに応じて期間の上限が定められています(第25条)。企業管理者(取締役など)は180日以内、高等教育以上の専門職は60日以内、技術職などは30日以内です。試用期間中の給与は、当該職務の本給の少なくとも85%以上でなければなりません(第26条)。

判例分析:試用期間終了後の雇用関係(判例第20/2018/AL号)

ベトナムの最高人民裁判所が採択した判例第20/2018/AL号によれば、試用期間が終了した後も労働者が引き続き就労し、使用者が異議を唱えずに給与を支払い続けていた場合、たとえ書面での正式な雇用 契約が未締結であっても、両者の間には事実上の労働契約関係が成立したとみなされます。この場合、使用者が後から「不採用」として労働者を排除することは不当解雇に該当します。したがって、試用期間の結果、本採用を見送る場合は、期間満了前に明確な通知を行うことが実務上の鉄則です。

5. 雇用 契約の解除と不当解雇のリスク管理

ベトナムの労働紛争で最も頻繁に争われるのが、使用者による一方的な契約解除の正当性です。法律は、解雇が認められるケースを第36条に限定的に規定しています。

使用者による一方的解除が認められる正当な理由(第36条1項)

  1. 職務不達成:使用者が策定した客観的な評価基準(KPI等)に基づき、労働者が頻繁に職務を完遂しない場合。この基準は、事前にの過程で労働者代表組織の意見を聴取し、周知されている必要があります。
  2. 病気・負傷:規定の治療期間を経ても労働能力が回復しない場合。
  3. 不可抗力:天災、火災、危険な疫病(新型コロナウイルス等)により、生産規模の縮小を余儀なくされた場合。
  4. 無断欠勤:5営業日以上連続の無断欠勤。

判例分析:通知義務違反による一方的解除(判決番号:1849/2019/LĐ-ST)

2019年11月29日、ホーチミン市人民裁判所は、フランス系企業の駐在員事務所代表であったV氏に対し、企業側が行った契約解除を違法と認定しました。企業側は「組織再編」を理由に挙げましたが、法律上の「構造変更」の要件を満たしておらず、かつ45日前の事前通知義務も果たしていませんでした。結果として、裁判所は約70億ドン(給与、手当、精神的補償等を含む)の支払いを企業に命じました。手続きの僅かな不備が、企業の存続を左右するほどの賠償額に直結することを警告する事例です。

6. 外国人労働者の管理とワークパーミットの整合性

ベトナムで日本人の専門家や管理者を雇用する場合、労働法第151条から第157条、および政令第219/2025/NĐ-CP号が適用されます。主要な要件は以下の通りです。

  • 有効な労働許可証(ワークパーミット)の所持。
  • 契約期間は労働許可証の有効期間(最大2年)を超えてはならない。
  • 専門家、管理者、技術者等の職位要件の充足。

実務上の陥りやすい罠は、労働許可証に記載された職位と雇用 契約上の職位の不一致です。判決第02/2023/LĐ-PT号では、労働許可証上の職位(技術専門家)と実際の契約上の役割(総監督)が矛盾していたため、その雇用関係の法的根拠が疑われ、契約の一部無効が議論されました。行政手続きと民事契約の整合性は厳密に維持されなければなりません。

7. 不当解雇時の損害賠償責任(第41条)

裁判所によって解雇が違法(不当解雇)と認定された場合、使用者は以下の義務を負います。

  • 労働者を元の職務に復職させる。
  • 就労できなかった期間の賃金、保険料の支払い。
  • 追加で少なくとも2ヶ月分以上の賃金に相当する賠償金。
  • 復職を希望しない場合は、退職手当に加え、さらなる合意賠償(少なくとも2ヶ月分以上)。

賠償額の算定根拠となる賃金には、基本給だけでなく、契約で定められた固定手当も含まれるため、高給の管理職層の解雇には慎重なリーガル チェックが求められます。

8. 企業が取るべき紛争予防措置

法的安定性を確保し、労働者との信頼関係を維持するために、企業は以下の措置を講じるべきです。

  1. 客観的評価制度の導入:解雇の理由として「能力不足」を挙げるためには、労働者と合意した具体的なKPI(重要業績評価指標)の記録が不可欠です。判決第02/2020/LĐ-PT号では、継続的な指導記録(メールや議事録)があったことから、職務未達成による解雇の正当性が認められました。
  2. プロセスの文書化:注意喚起、指導、協議のプロセスはすべて書面で残します。口頭の注意は裁判での証拠能力が著しく低いためです。
  3. 就業規則の適正な登録:10人以上の労働者を雇用する場合、規則の作成と当局への登録は法的義務です(第119条)。規則にない理由での懲戒処分は一切認められません。
  4. 定期的な労務 監査:法令改正や判例の動向に合わせ、雇用 契約のテンプレートを常にアップデートすることが、最大の防御策となります。

9. 結論

ベトナムにおける雇用 契約の実務は、単なる文書作成を超えた高度な法的戦略を必要とします。2019年労働法の運用は、労働者保護の観点から非常に厳格であり、企業側には常に高い「説明責任」と「立証責任」が課されています。適切な契約の締結から、公正な評価制度の運用、そして万が一の際の適法な終了手続きに至るまで、専門的なを活用し、法的リスクを事前に特定・排除することが、ベトナムでの持続可能な事業運営の鍵となります。日本企業の皆様におかれましては、本稿で示した法的論点と裁判例を教訓に、透明性の高い労務管理体制を構築されることを強く推奨いたします。

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