不動産投資弁護士相談 – ベトナムにおける不動産取引の法的リスクと対策
ベトナムの不動産市場は日本企業にとって魅力的な投資先である一方、法的リスクも少なくありません。実際の裁判例を見ると、不動産取引における法令違反がどのような法的帰結をもたらすかが明確に示されています。
2019年11月27日、ホーチミン市第8区人民裁判所が下した判決517/2019/DS-STは、将来完成予定物件の売買契約に関する重要な判断を示しました。この事案では、V氏がVHP社との間で2件のマンション売買契約を締結しました。1件目は2013年11月13日付契約番号28N/2013(B3-LA棟11階、代金18億4,318万7,500ドン)、2件目は2013年12月12日付契約番号25M/2011(B2A-LA棟5階、代金16億7,003万9,250ドン)です。V氏は合計32億5,406万3,450ドンを支払いましたが、VHP社は物件を引き渡しませんでした。
裁判所はこれら2件の契約をいずれも無効と判断しました。その根拠は以下の3点です。第一に、VHP社は建物の基礎工事が完成する前に売買契約を締結しており、将来完成予定住宅の販売要件に違反していました。第二に、不動産取引所を通じた取引を行わなかったという手続上の瑕疵がありました。第三に、最も重大な違反として、住宅法第39条第1項が定める資金調達限度額の超過がありました。
住宅法第39条第1項の資金調達制限とその実務的意義
ベトナム住宅法第39条第1項は、将来完成予定住宅(未完成物件)の販売において、開発業者が基礎工事完了前に購入者から受領できる代金は契約総額の70%までと明確に制限しています。この規定は購入者保護を目的としており、開発業者が過度に購入者資金に依存することを防ぐための重要な法的装置です。
前述の判決では、VHP社は実際には契約額の95%および90%を購入者から受領していたことが認定されました。この70%制限の大幅な超過は、単なる手続違反ではなく、契約を根本から無効とする重大な法令違反と判断されたのです。裁判所は民法典の規定に基づき、契約無効の法的効果として、両当事者が受領したものを相互に返還すること、および過失のある当事者(この場合VHP社)が損害賠償責任を負うことを命じました。
日本企業がベトナムで不動産投資を行う際の法的注意点
この判決は、日本企業がベトナムで不動産開発プロジェクトに参画する際、あるいは将来完成予定物件を購入する際に、極めて重要な教訓を提供します。開発業者側として参画する場合、住宅法第39条第1項の70%上限規定を厳格に遵守しなければ、販売契約そのものが無効とされ、既に受領した代金を全額返還しなければならないリスクがあります。資金計画全体が崩壊する可能性があるため、コンプライアンス体制の構築は必須です。
購入者側として物件取得を検討する場合も、同様に注意が必要です。開発業者が法令に違反して資金調達を行っている場合、契約が無効とされるリスクがあり、たとえ代金を全額支払っていても物件の引渡しを受けられない可能性があります。この場合、返金を受けることはできても、投資目的や事業計画に重大な支障が生じます。
不動産取引における弁護士相談の重要性
ベトナムの不動産関連法規は、住宅法、建設法、投資法、土地法など複数の法令にまたがっており、さらに政令や通達による詳細規定も頻繁に改正されます。日本企業の経営者や投資担当者が、これらすべての法令を正確に把握し続けることは現実的ではありません。
前述の判決が示すように、法令違反は契約無効という取り返しのつかない結果をもたらします。事前の法的デューデリジェンスを怠ったために、数十億ドン規模の投資が水泡に帰すリスクがあるのです。専門弁護士による事前相談は、このようなリスクを回避するための最も確実な手段です。
Unilawは、ベトナムで事業展開する日本企業に特化した法律サービスを提供しており、不動産投資案件において以下のような支援を行っています
- 契約締結前の法的デューデリジェンス:開発業者の法的適格性、プロジェクトの許認可状況、資金調達方法の法令適合性などを詳細に調査します。
- 契約書のドラフティングとレビュー:ベトナム法に完全に準拠した契約書を作成し、または開発業者が提示した契約書案の法的リスクを精査します。
- 取引実行段階でのコンプライアンス監視:支払時期と金額が住宅法第39条第1項の70%制限を遵守しているか、不動産取引所を通じた取引が適切に実施されているかなど、取引の各段階で法令遵守を確認します。
- 紛争発生時の訴訟代理:万が一契約紛争が発生した場合、ベトナムの裁判所における訴訟手続を代理します。
法令規定と裁判所の実務的適用の比較分析
ベトナム住宅法第39条第1項は、将来完成予定住宅の販売において、開発業者が建物の基礎工事完了前に購入者から受領できる代金を契約総額の70%までと明確に制限しています。この規定の法的趣旨は、開発業者が購入者資金に過度に依存することを防ぎ、プロジェクトの資金的健全性を確保することで購入者を保護することにあります。
前述のホーチミン市第8区人民裁判所の判決517/2019/DS-STにおいて、裁判所はこの規定を厳格に適用しました。事案においてVHP社は、契約番号28N/2013では契約額18億4,318万7,500ドンのうち95%に相当する金額を、契約番号25M/2011では契約額16億7,003万9,250ドンのうち90%に相当する金額を、それぞれ基礎工事完了前に購入者から受領していました。裁判所はこの事実認定に基づき、70%という法定上限を大幅に超過した資金調達が行われたと判断し、これを契約無効の決定的な根拠の一つとしました。
重要なのは、裁判所が単に「70%を超えた」という形式的違反を指摘したのではなく、この超過が契約の本質的要素に関わる重大な法令違反であると位置づけた点です。ベトナム民法典の規定によれば、法令の禁止規定に違反する契約は無効となり、契約無効の法的効果として、両当事者が受領したものを相互に返還し、過失のある当事者が損害賠償責任を負うこととされています。判決517/2019/DS-STにおいて、裁判所はVHP社に対し、V氏から受領した合計32億5,406万3,450ドン全額の返還を命じるとともに、V氏が被った損害の賠償責任を認めました。
この実務的適用から読み取れるのは、ベトナムの裁判所が不動産取引における法令遵守を極めて重視しており、購入者保護規定の違反に対しては厳格な法的制裁を科すという明確な姿勢です。開発業者側の「資金調達上の必要性」や「市場慣行」といった経済的理由は、法令違反を正当化する根拠とはなり得ません。
複合的な法令違反と契約無効判断の実務
判決517/2019/DS-STにおいて、裁判所は住宅法第39条第1項違反だけでなく、複数の法令違反を総合的に評価して契約無効を判断しました。第一に、VHP社は建物の基礎工事が完成する前に売買契約を締結しており、これは将来完成予定住宅の販売を許可する要件そのものに違反していました。第二に、当時のベトナム不動産法制は、一定の不動産取引について不動産取引所を通じた取引を義務づけていましたが、VHP社はこの手続要件を履行していませんでした。
これらの違反が重なり合うことで、裁判所は契約が複数の重要な法令規定に抵触していると認定し、契約無効という法的帰結を導きました。日本企業にとって重要な教訓は、ベトナムにおける不動産取引では、単一の法令に形式的に適合しているだけでは不十分であり、住宅法、建設法、投資法、土地法など関連するすべての法令要件を総合的に満たす必要があるという点です。
一つの法令違反が他の違反を誘発し、結果として取引全体が無効とされるリスクがあります。数十億ドン規模の投資案件において、このようなリスクは企業経営に致命的な影響を及ぼしかねません。したがって、取引開始前の包括的な法的デューデリジェンスと、取引実行の各段階における継続的なコンプライアンス確認が不可欠です。
まとめ:ベトナム不動産投資における法律専門家の活用
ベトナムの不動産市場は高い成長ポテンシャルを有していますが、法的環境は複雑であり、法令の解釈や適用も日本とは大きく異なります。判決517/2019/DS-STが示すように、法令違反は契約無効という取り返しのつかない結果をもたらし、投資資金の回収すら困難になる可能性があります。
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