ベトナムの急速な経済成長と外資系企業の流入に伴い、ハノイやホーチミン市を中心とした商業用不動産市場、特にオフィス ビル 投資は、日本人投資家や企業にとって極めて魅力的な選択肢となっています。しかし、ベトナムの不動産法制は、2024年8月1日から施行された「2024年土地法(法律第31/2024/QH15)」、「2023年不動産事業法(法律第29/2023/QH15)」、および「2023年住宅法(法律第27/2023/QH15)」により、歴史的な大改正が行われました。これらの新法は、外国人投資家の権利を一部拡大する一方で、投資主体の適格性や土地使用権の形態、財務義務に関して厳格な基準を設けています。本稿では、ベトナム現地の弁護士の視点から、最新の法的枠組みに基づき、オフィスビル投資のスキーム、制限事項、および紛争回避のための重要判例を包括的に分析します。
1. オフィスビル投資における投資主体の適格性と法的根拠
ベトナムでオフィスビルに投資を行う場合、投資家が「外国個人」であるか「外資系企業(FIE)」であるかによって、認められる権利の範囲が大きく異なります。
1.1. 外国投資家および外資系企業の定義
2020年投資法および2023年不動産事業法第10条によれば、不動産事業(オフィス賃貸を含む)を行う主体は、原則として法人を設立しなければなりません。外資系企業は、出資比率が50%を超える場合、外国人投資家向けの特別な手続きを履践する必要があります。一方で、2024年土地法第4条および第44条は、ベトナム系海外居住者(越僑)に対し、国内国民とほぼ同等の不動産所有権および土地使用権を認めており、投資の柔軟性が大幅に向上しています。
1.2. 不動産事業法の適用範囲
不動産事業法第9条に基づき、不動産を業として営む組織や個人は、一定の資本金維持やライセンス取得が義務付けられています。特に、オフィスビルの建設・販売・賃貸を行う場合、当該企業は事業登録を行い、適切な財務能力を証明しなければなりません。
2. オフィスビル投資の主要スキームと土地使用権
ベトナムにおいて土地は全人民の所有物であり、国が管理を行っています。そのため、投資家が取得するのは「所有権」ではなく「土地使用権」です。
2.1. 土地使用権の取得形態
外資系企業がオフィス ビル 投資を行う際の主な土地取得方法は以下の通りです。
- 国からの直接借地:年間賃料支払い、または全期間一括支払い形式。
- 工業団地開発業者等からの再転貸:インフラ整備済みの土地を借り受ける形式。
- 国内企業からの資本参加:土地使用権を有するベトナム企業を買収、あるいは合併する形式(M&Aスキーム)。
2024年土地法第41条によれば、一括支払い形式で土地を借りている外資系企業は、その土地使用権を譲渡したり、サブリースしたりする広範な権利を有します。
2.2. 建物所有権とピンクブックの発行
土地法第131条に基づき、投資家は土地登記所にて登記を行い、所有権証明書(ピンクブック)の交付を受ける権利があります。オフィスビル全体を所有する場合、その建物(地上資産)の所有権が法的に保護されますが、土地自体は借地期間(通常最大50年、重要プロジェクトは70年)に制限されます。
3. 財務能力要件とプロジェクト実施の制限
不適切な開発業者を排除し、市場の透明性を高めるため、新法では厳しい資本金要件が課されています。
3.1. 自己資本比率の規制
不動産事業法第9条第2項に基づき、不動産プロジェクトを実施する企業は、以下の自己資本比率を維持しなければなりません。
- 使用土地面積が20ヘクタール未満のプロジェクト:総投資額の20%以上。
- 使用土地面積が20ヘクタール以上のプロジェクト:総投資額の15%以上。
この要件を満たさない場合、プロジェクトの承認や土地使用権の付与が拒否される可能性があります。
3.2. プロジェクト譲渡の条件
投資途中でプロジェクトを売却する場合(M&A)、不動産事業法第40条に基づき、譲渡人は土地に関する財務義務(土地使用料や税金)を完納していなければなりません。また、土地登記所による事前の承認と、関係当局による「プロジェクト譲渡許可」が必要となります。
4. 実務上の法的リスクと重要判例の分析
ベトナムでの不動産投資において、法的知識の欠如は致命的な損失を招く可能性があります。過去の判例は、裁判所がどのような基準で取引の有効性を判断するかを示しています。
4.1. 名義貸し(身代わり投資)の法的無効性
外国人が法的な制限を回避するためにベトナム人の名前を借りてオフィス物件を取得するケースがありますが、これは極めて危険です。最高人民裁判所の判例 02/2016/ALは、資金を提供した外国人と名義人の間の紛争について、「名義を貸した者の貢献度を考慮し、価格上昇分を折半する」という判断を下しています。
この判例によれば、投資した資金が全額戻る保証はなく、名義人が勝手に物件を処分した場合、投資家は物件を取り戻すことが事実上不可能になります。
4.2. 外国為替管理法違反と契約の無効
ベトナム国内での取引価格の設定や決済を米ドル等の外貨で行うことは、外国為替管理令および中央銀行の規定により厳禁されています。
ホーチミン市人民裁判所の判例(第39/2023/KDTM-PT)では、外貨による支払い合意が含まれていたために、不動産売買契約の一部または全部が無効と判断されました。投資家は、必ずベトナムドン(VND)を基準とした契約書を作成し、銀行振込を通じた透明な決済を行う必要があります。
4.3. 登記手続きの瑕疵と所有権の喪失
開発業者が土地を銀行に抵当権設定しているにもかかわらず、購入者に告知せずに販売した場合、購入者は長期間ピンクブックを取得できないリスクがあります。最高人民裁判所の判決(第01/2024/DS-GDT)は、行政手続きに瑕疵がある場合、善意の第三者が保護されるケースがある一方で、根本的な契約が無効であれば登記も取り消されるべきとの立場を示しています。
5. 税務義務とコンプライアンス
オフィス ビル 投資に伴う税務コストの精査は、利回りの算出において不可欠です。
5.1. 譲渡所得税と法人税
不動産(土地使用権および地上資産)の譲渡には、以下の税金が発生します。
- 法人の場合:不動産譲渡による利益に対し20%の法人所得税。
- 個人の場合:譲渡価格の2%の所得税。
なお、税逃れを目的として契約価格を実勢価格より著しく低く記載した場合、税務当局による追徴課税や罰則の対象となるだけでなく、将来の売却時に多大な不利益を被ることになります。
5.2. 付加価値税(VAT)
商業用オフィスの売買や賃貸には、原則として10%のVATが課されます。2024年付加価値税法および関連通知に基づき、土地使用料相当額はVATの課税標準から控除されます。
6. 弁護士によるリーガルアドバイス
ベトナムでの投資を安全に進めるためには、以下のプロセスを確実に履行することが推奨されます。
- リーガル・デューデリジェンスの実施:プロジェクトの法的根拠(建設許可、土地使用権証明書、販売可能通知)を土地登記所や建設局で精査する。
- 適切な契約書の作成:事業目的に合致し、かつ新法(2023年不動産事業法)の強行規定を遵守した契約書を準備する。
- 銀行保証の確認:建設中の物件を予約購入する場合、銀行による返金保証が付帯しているかを確認する。
弊所のでは、不動産・土地法務に特化した日本人弁護士および現地弁護士が、日本人投資家の皆様に対し、市場参入から出口戦略までの一貫したサポートを提供しております。特に、の分野において、現地の複雑な商習慣と法規制の橋渡しを行い、安全な資産運用を支援いたします。
不透明な合意に基づく「名義貸し」の誘惑に負けず、2024年の新法が提供する透明な投資ルートを選択することが、長期的な成功の唯一の鍵です。ベトナムでのやオフィスビル投資に関する具体的な法的懸念がある場合は、ぜひ弊所の専門チームにご相談ください。
ベトナムの法環境は、新法の施行により「透明化」と「厳格化」が同時に進んでいます。この変化を正しく理解し、最新の法理に基づいた対策を講じることが、投資リスクを最小化し、利益を最大化するための最善の策となります。
この分野の関連情報
個別の論点は下記の記事で詳しく扱っています。



