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ベトナム労働法 | 2024年最新情報

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ベトナム労働法 | 2024年最新情報

2025年9月17日、ベトナム最高人民法院ホーチミン市控訴裁判所は、労働契約終了時の補償及び手当に関する重要な判決(判決番号03号)を下しました。本件は、使用者が労働契約終了時に社会保険手帳の記帳手続きを遅延させたことにより、労働者が失業手当を受給できなくなった事案です。裁判所は一審判決を支持し、使用者に対して労働者へ6,000万ドン(約60万円)の損害賠償を命じました。この判決は、ベトナム労働法における使用者の義務履行の重要性を改めて示すものであり、ベトナムで事業展開する日系企業にとって看過できない実務上の教訓を含んでいます。

労働契約終了時の使用者義務:法律が定める厳格な期限

本件において最も重要な争点となったのは、労働契約終了時における使用者の法定義務の履行期限です。ベトナム労働法2019(2021年1月1日施行)第48条第1項は、「労働契約終了日から14営業日以内に、双方は相互の権利に関連する全ての金銭を完全に清算する責任を負う」と明確に規定しています。この「権利に関連する全ての金銭」には、未払賃金、退職手当のみならず、社会保険手帳の記帳完了及び返却という手続的義務も含まれます。

さらに同条第3項a号は、使用者の具体的責任として「社会保険、失業保険の加入期間確認手続きを完了し、使用者が保管していた労働者の原本書類とともに返却すること」を義務付けています。また、社会保険法2014第21条第5項も、「使用者は社会保険機関と協力して、労働者が労働契約を終了した際に社会保険手帳を返却し、社会保険加入期間を確認する」と定めており、この義務は使用者と社会保険機関の双方に課せられた法定責任です。

本件では、労働者であるファム・ティ・トゥー・C氏は2021年3月30日付で労働契約を終了しましたが、使用者であるB.Braun社のハノイ駐在員事務所から労働契約終了決定書を受領したのは2022年2月17日でした。これは法定期限である「14営業日」を大幅に超過しており、裁判所は明確に「B.Braun社は労働契約終了決定書の送付期限について法律に違反した」と認定しました。

社会保険手帳記帳遅延がもたらした実害:失業手当受給権の喪失

本件において使用者の義務違反が労働者に与えた具体的損害は、失業手当受給機会の喪失でした。ベトナム雇用法2013(法律第38/2013/QH13号)第46条第1項は、「労働契約又は勤務契約終了日から3ヶ月以内に、労働者は失業手当受給申請書類を雇用サービスセンターに提出しなければならない」と規定しています。この3ヶ月という期限は厳格であり、期限を過ぎた申請は受理されません。

同法第49条第1項、第2項及び第4項は失業手当受給の要件を定めており、その中核となるのが「社会保険手帳に失業保険加入期間が正確に記帳されていること」です。2015年3月12日付政令第28/2015/NĐ-CP号第16条及び2020年5月29日付政令第61/2020/NĐ-CP号第1条第6項による改正規定は、失業手当申請に必要な書類として、①申請書、②労働契約終了を証明する書類(原本又は認証済み写し、あるいは原本と照合可能な写し)、③社会保険手帳、を挙げています。

本件労働者C氏は、社会保険手帳の記帳が完了したのが2022年3月3日であり、同手帳を実際に受領したのは2022年3月23日(C氏自身がメールで受領確認)でした。その後C氏は2022年6月15日にD1省雇用サービスセンターへ失業手当申請書類を提出しましたが、同センターは同日付通知書第900/TB-TTDVVL号により「C氏は失業手当受給要件を満たさない(雇用法第46条第1項、第49条第3項及び政令第28/2015/NĐ-CP号第17条第1項の規定による)」として申請を却下しました。却下の理由は、労働契約終了日(2021年3月30日)から3ヶ月を経過した後の申請であったためです。

裁判所は詳細な事実認定を通じて、この申請遅延の原因が専ら使用者側にあることを明らかにしました。C氏の社会保険手帳には複数の問題(手帳紛失、複数の社会保険番号の存在、旧勤務先での重複加入等)が存在しましたが、これらは全てC氏がB.Braun社で勤務開始する以前から存在していた問題でした。C氏自身も2021年4月14日付のTK1-TS様式申告書において、3つの社会保険番号(0202081027、0207058507、8308002522)が存在し、2009年6月に旧勤務先であるベンチェ省のH薬局との間で重複加入があったことを申告していました。

使用者B.Braun社は2021年4月19日にハノイ市ドンダー区社会保険局へC氏の社会保険手帳記帳を申請(書類番号55379.BD/2021/00106)しましたが、同局は2021年5月6日付通知書第80550/2021/00106/TBBHXH号及び書類補完要求票第55379.00106/2021/HDHS号により、理由を明示せず補完内容も示さないまま申請を却下しました。その後、2021年5月6日から2022年2月11日までの約9ヶ月間、使用者がドンダー区社会保険局と継続的に協力して必要な手続きを進めた証拠は記録上確認できませんでした。裁判所はこの点を明確に指摘し、「BHXH(社会保険機関)ドンダー区が2021年5月6日にC氏の書類処理を拒否した後、2022年2月11日にホーチミン市社会保険局がB.Braun社ホーチミン支店へ社会保険手帳別紙を引き渡すまでの間、B.Braun社がドンダー区社会保険局と協力してC氏の社会保険手帳記帳に必要な手続きを継続した事実は確認できない」と認定しました。

最終的に、ホーチミン市社会保険局が2022年2月にC氏の旧勤務先での記帳を完了し(2022年2月11日付社会保険手帳別紙引渡調書)、これを受けてようやくハノイ市ドンダー区社会保険局での記帳が2022年3月3日に完了しました。しかしこの時点で既に、労働契約終了日から失業手当申請の法定期限である3ヶ月は経過していました。C氏が後日(2023年3月14日)B1省社会保険局へ社会保険手帳統合申請を行い、結果通知予定日が2023年5月23日とされましたが、ドンダー区社会保険局での記帳完了日(2022年3月3日)基準でも、C氏が実際に申請した2024年6月15日は既に期限を徒過していました。

裁判所の法的判断:因果関係と使用者責任の明確化

本判決において裁判所は、使用者の義務違反と労働者の損害との間の因果関係を詳細に検討しました。まず、労働契約終了決定書の交付遅延について、裁判所は「法律上、労働契約終了日から14営業日以内にB.Braun社はC氏の権利に関連する全ての事項を清算・返却する責任があった。しかしC氏が労働契約終了決定書を受領したのは2022年2月17日であり、B.Braun社は労働契約終了決定書送付の法定期限に違反した」と明確に述べています。

社会保険手帳記帳遅延に関する過失の所在について、裁判所は次のように判断しました。確かにC氏の社会保険記録には複数の問題が存在し、使用者が記帳手続きを進める上で困難に直面したことは事実です。ドンダー区社会保険局も2023年10月3日付文書第803/BHXH号において、「C氏は3つの社会保険手帳を有しており、規定上は1人1冊のみであるところ、重複加入期間が存在し、かつ2冊の手帳については既に一時金を受給済みであったため、業務担当者の権限では処理できず書類を返却した」と後日説明しています。しかしこれらの問題は全て、C氏がB.Braun社で勤務開始する以前から存在していたものです。

重要なのは、使用者が困難に直面した後の対応です。裁判所は、2021年5月6日の却下以降、使用者が積極的に問題解決に向けて社会保険機関と協力した証拠が不足していると指摘しました。特に、C氏の旧勤務先があったホーチミン市での記帳完了(2022年2月)まで約9ヶ月を要した期間において、使用者がどのような具体的努力を行ったかが記録上明らかでないことを問題視しました。労働法第48条が定める14営業日という期限は、通常の手続き遅延を許容するものではなく、使用者には困難な状況下でも積極的に問題解決を図る義務があると解されます。

損害賠償責任の法的根拠:社会保険手帳記帳遅延による因果関係の立証

本判決において裁判所は、使用者の義務違反と労働者の経済的損害との間に明確な因果関係が存在することを認定しました。ベトナム雇用法2013第50条は、「労働者が失業手当を受給できない原因が使用者の過失による場合、使用者は労働者が受給できなかった失業手当相当額を賠償する責任を負う」と規定しています。本件において裁判所は、C氏が失業手当を受給できなかった直接的原因が、使用者B.Braun社による社会保険手帳記帳手続きの遅延にあると明確に認定しました。

法的分析において重要なのは、裁判所が因果関係の立証において詳細な時系列検証を行った点です。C氏の労働契約終了日は2021年3月30日であり、法律上は同日から14営業日以内、遅くとも2021年4月中旬までに社会保険手帳の記帳及び返却が完了しているべきでした。仮にこの期限が遵守されていれば、C氏は2021年6月末までに失業手当申請が可能であり、受給要件を満たしていました。しかし実際には、ドンダー区社会保険局での記帳完了が2022年3月3日、C氏への実際の返却が2022年3月23日となり、申請可能となった時点で既に法定期限である「労働契約終了日から3ヶ月」は大幅に経過していました。

裁判所は、C氏の社会保険記録に複数の問題(3つの社会保険番号の存在、旧勤務先での重複加入等)が存在したことを認めつつも、これらは全てC氏がB.Braun社での勤務開始以前から存在していた問題であると指摘しました。重要なのは、使用者がこれらの問題を認識した後の対応です。2021年5月6日にドンダー区社会保険局から書類が却下された後、2022年2月11日にホーチミン市社会保険局がB.Braun社ホーチミン支店へ社会保険手帳別紙を引き渡すまでの約9ヶ月間、使用者がドンダー区社会保険局と継続的に協力して問題解決に取り組んだ証拠が記録上確認できないことを、裁判所は明確に問題視しました。

損害賠償額の算定根拠:失業手当受給権の経済的価値

裁判所はC氏に対する損害賠償額を6,000万ドン(約60万円)と認定しました。この金額は、C氏が本来受給できたはずの失業手当の総額に相当します。ベトナム雇用法2013第49条は失業手当の受給要件を定めており、同法第50条は失業手当の月額算定方法を規定しています。具体的には、失業手当月額は「失業前6ヶ月間の平均賃金に失業保険料率を乗じた額の60%」と定められており、受給期間は失業保険加入期間に応じて決定されます(12ヶ月以上24ヶ月未満の場合は3ヶ月、24ヶ月以上36ヶ月未満の場合は6ヶ月等)。

本件においてC氏はB.Braun社において2012年2月1日から2021年3月30日まで約9年間勤務しており、この期間中継続して失業保険に加入していました。したがって、C氏が受給できたはずの失業手当は相当長期間にわたるものであり、その総額が6,000万ドンに達したことは合理的です。裁判所は、この金額について詳細な計算根拠を示し、使用者の義務違反がなければC氏が確実に受給できた金額であると認定しました。

実務上の教訓:日系企業が留意すべき社会保険手続きの重要性

本判決が日系企業に与える実務上の教訓は極めて重要です。第一に、労働契約終了時の14営業日という期限は厳格に遵守されなければならず、単なる努力目標ではないという点です。社会保険手帳の記帳完了及び返却は、未払賃金の支払いや退職手当の計算と同様に、使用者の法定義務として位置づけられています。

第二に、労働者の社会保険記録に問題が存在する場合であっても、使用者には積極的に問題解決を図る義務があるという点です。本件において、C氏の社会保険記録の問題は確かに複雑であり、使用者にとって困難な状況でした。しかし裁判所は、困難があったことを免責事由とは認めず、むしろ困難に直面した後の使用者の対応を詳細に検証しました。2021年5月の却下以降、使用者が積極的に社会保険機関と協力した証拠が不足していることが、過失認定の重要な根拠となりました。

第三に、損害賠償額が極めて高額になり得るという点です。本件における6,000万ドンという金額は、日本円で約60万円に相当し、決して少額ではありません。これは単なる手続き遅延に対する罰則的賠償ではなく、労働者が実際に失った経済的利益の補填という性格を持ちます。使用者にとって、手続き遅延がもたらす経済的リスクは極めて大きいと言えます。

予防的実務対応:社会保険手帳記帳手続きの確実な実施のために

本判決を踏まえ、日系企業は以下の予防的対応を講じるべきです。第一に、労働者の入社時から社会保険記録の確認を徹底することです。本件のように、過去の勤務先での重複加入や複数の社会保険番号の存在といった問題は、労働契約終了時に発覚すると解決に長期間を要します。入社時に労働者から全ての旧社会保険手帳を提出させ、社会保険機関と協力して記録を統合・整理しておくことが重要です。

第二に、労働契約終了が決定した時点で、直ちに社会保険手帳記帳手続きに着手することです。法定期限である14営業日は決して長くありません。特に、月末や祝日前の退職の場合、実質的な営業日数はさらに少なくなります。余裕を持った手続き開始が不可欠です。

第三に、社会保険機関から書類却下や補完要求があった場合、直ちに対応し、必要に応じて労働者本人や旧勤務先とも連携して問題解決を図ることです。本件において裁判所が特に問題視したのは、2021年5月の却下後、使用者が約9ヶ月間にわたり積極的な対応をとった証拠が不足していた点でした。困難に直面した場合こそ、継続的かつ積極的な対応が求められます。

第四に、労働契約終了決定書の交付も法定期限内に確実に行うことです。本件では、社会保険手帳記帳遅延のみならず、労働契約終了決定書の交付遅延(2021年3月30日の契約終了に対し、2022年2月17日に交付)も義務違反として認定されました。これらの手続きは相互に関連しており、いずれか一方の遅延も損害賠償責任を発生させる可能性があります。

おわりに

ベトナム労働法における使用者の義務は、日本の労働実務と比較しても詳細かつ厳格です。特に労働契約終了時の手続きについては、明確な期限が法定されており、その遵守は使用者の絶対的責任とされています。本判決は、手続き遅延がもたらす経済的リスクの大きさを明確に示すものであり、ベトナムで事業展開する日系企業にとって重要な実務指針となります。

ベトナム労働法に関する具体的なご相談、労働契約終了時の手続き支援、社会保険関連トラブルへの対応については、ベトナム労働法に精通したUnilawの専門チームが日本語で丁寧にサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

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