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ベトナム知的財産権の完全ガイド | Unilaw

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ベトナム知的財産権の完全ガイド | Unilaw

2024年6月11日、ベトナム最高人民裁判所は判決番号07/2024/KDTM-GĐTにより、商標権をめぐる重要な知的財産紛争に関する判断を下しました。この事案は、T社(Công ty cổ phần T)とT1社(Công ty cổ phần T1)の間で発生した商標「Quê Tôi(私のふるさと)、図形」の所有権譲渡契約の有効性をめぐる紛争であり、ベトナムにおける知的財産権の管理と企業取引における法的リスクを明確に示す判例として、同年6月26日に判例として公表されました。本事案は、ベトナムで事業展開する日系企業が知的財産権を取得・管理する際に直面しうる法的課題を理解する上で、極めて重要な示唆を与えるものです。

事案の概要と法的争点

T社は2004年4月5日に設立され、ブイ・ヴァン・C1氏、ゴー・ティ・P氏、ブイ・ヴァン・C氏の3名の創立株主により構成されていました。同社の支店であるC工場の工場長を務めていたグエン・ヴァン・X氏が2010年に商標「Quê Tôi、図形」を創作し、2011年9月29日、知的財産庁(Cục Sở hữu trí tuệ)はT社に対して登録番号172810の商標登録証を発行しました。つまり、この商標の所有者はT社でした。

2013年、T社は事業モデルの変更を理由に支店の活動を終了することを決定しました。同年8月7日、T1社が新たに設立され、創立株主はブイ・ヴァン・C1氏、グエン・ヴァン・X氏(T1社の代表取締役)、グエン・タイン・L氏の3名でした。T1社はT社と同じ住所(ハイフォン市ホン・B区フン・V通り374番地)の工場と倉庫を賃借して事業活動を開始しました。

2013年8月15日のT社取締役会議事録には、「T社取締役会は商標『Quê Tôi、図形』の使用権をT1社に譲渡することを決議し、T社取締役会長であるC1氏に対し、T1社との商標使用権譲渡契約の締結を委任する」という内容が記録されていました。しかし実際には、2013年9月10日、T社(代表者:ブイ・ヴァン・C取締役)とT1社(代表者:グエン・ヴァン・X取締役)は、契約番号AS17-BINHMINHの産業財産権譲渡契約を締結し、その内容はT社が商標登録証「Quê Tôi、図形」(登録番号172810)の所有権をT1社に無償で譲渡するというものでした。2013年12月30日、知的財産庁は決定番号3541/QĐ-STTTにより、T1社に対して産業財産権譲渡契約登録証番号6778/ĐKHĐSHを発行しました。

最高人民裁判所の法的判断

本件における中心的な法的争点は、2013年9月10日に締結された産業財産権譲渡契約の有効性でした。最高人民裁判所は、2005年企業法第95条および2011年に承認されたT社定款第25条に基づき、契約締結時点においてC1氏がT社の法定代表者であったことを確認しました。T社の設立時(2004年)から2015年10月10日までの企業登録証明書は、すべてC1氏が法定代表者であることを明示していました。

裁判所は以下の重要な法的瑕疵を認定しました。第一に、2013年8月15日の取締役会議事録では、取締役会は商標の「使用権譲渡」のみを決議しており、「所有権譲渡」ではなかったこと、さらに契約締結権限はC1氏に委任されており、C氏には委任されていなかったことです。C1氏はC氏に対して産業財産権譲渡契約締結の再委任を行っておらず、したがってC氏がT社を代表して本契約に署名したことは権限を逸脱しており、取締役会決議に違反するものでした。2005年民法第145条第1項により、このような権限外の行為はT社に権利義務を発生させないと判断されました。

第二に、C1氏はT社とT1社の両方の株式を保有していたため、T1社がT社と契約を締結する際には、2005年企業法第120条第1項c号および第2項に基づき、取締役会の承認を得る必要がありました。C氏が産業財産権譲渡契約に署名した行為はT社取締役会の承認を得ておらず、同法第120条第4項の規定に違反するため無効であると判断されました。さらに、2015年民法第123条および第132条第3項(2005年民法第128条および第136条第2項に相当)により、契約の無効宣言を求める時効は制限されないことが確認されました。

控訴審裁判所は、T社の権限者が契約締結を知り黙認していたこと、契約は知的財産庁への登録時から効力が発生していたこと、2019年6月21日の提訴は時効を経過しているとして訴訟を却下しましたが、最高人民裁判所はこの判断を覆しました。一審裁判所が2013年9月10日の産業財産権譲渡契約を無効と宣言し、知的財産庁の2013年12月30日付産業財産権譲渡契約登録証番号6778/ĐKHĐSHを取り消したことは正当であると判断しました。

適用された主要な法的根拠

本判決において最高人民裁判所が適用した主要な法的根拠は以下の通りです。まず、知的財産権の実体法としては、2005年知的財産法第50/2005/QH11号(2009年、2019年、2022年に改正補充)が商標権の登録と譲渡に関する基本的枠組みを提供しています。

企業のガバナンスおよび代表権限に関しては、2005年企業法第95条が法定代表者の決定方法を規定し、第120条第1項c号および第2項が利益相反取引における取締役会承認の必要性を定めています。同法第120条第4項は、この承認を得ない取引は無効となることを明確にしています。

民事法の側面では、2005年民法第145条第1項が権限外の代理行為の効力について規定し、第128条および第136条第2項(2015年民法では第123条および第132条第3項)が契約無効の時効に関する原則を定めています。さらに、訴訟手続きについては、2015年民事訴訟法第337条第2項a号、第343条第2項、第344条に基づき監督審の手続きが進められました。

本件において特に重要なのは、取締役会が決議した内容(使用権譲渡)と実際に締結された契約の内容(所有権譲渡)の不一致、および法定代表者でない者による契約締結という二重の瑕疵が存在したことです。ベトナム法は企業の代表権限について厳格な形式主義を採用しており、定款および企業登録証明書に記載された法定代表者以外の者が重要な取引を行う場合には、明確な書面による委任が必要となります。

日系企業への実務的示唆

本判例は、ベトナムで知的財産権の取得や譲渡を検討する日系企業に対し、以下の重要な教訓を提供します。

まず、知的財産権譲渡契約を締結する際には、譲渡人側の内部承認手続きの適法性を慎重に確認する必要があります。特に、取締役会議事録と実際の契約内容が完全に一致していることを確認し、使用権と所有権の区別を明確にすることが不可欠です。本件では、取締役会は「使用権譲渡」のみを承認していたにもかかわらず、実際には「所有権譲渡」契約が締結されたことが無効の主要な根拠となりました。

第二に、契約締結権限者の確認が極めて重要です。ベトナム企業と取引する際には、必ず最新の企業登録証明書と定款を取得し、法定代表者が誰であるかを確認する必要があります。本件のように、取締役が契約に署名していても、その者が法定代表者でない場合、または適切な委任を受けていない場合、契約は無効となるリスクがあります。C氏は取締役であり、2004年の決定により取締役に任命されていましたが、2011年定款により法定代表者はC1氏(取締役会長)と変更されていたため、C氏の署名は無権限行為とされました。

第三に、利益相反取引に関する規制への注意が必要です。ベトナム企業法は、株主または取締役が複数の会社に関与している場合の取引について、取締役会の承認を義務付けています。本件では、C1氏がT社とT1社の両方の株主であったため、2社間の契約には取締役会の承認が必要でしたが、これが欠如していたことが契約無効のもう一つの根拠となりました。日系企業がベトナムのグループ会社間で知的財産権を移転する場合にも、同様の規制が適用される可能性があります。

第四に、知的財産庁への登録が完了していても、基礎となる契約に瑕疵がある場合、その登録は後に取り消される可能性があることを認識する必要があります。本件では、2013年12月に知的財産庁が譲渡契約登録証を発行していましたが、2024年の最高裁判決により基礎契約が無効とされ、登録証も取り消されました。これは、デューデリジェンスの際に登録証の存在だけでなく、基礎となる契約の有効性も検証する必要性を示しています。

デューデリジェンスにおける検証項目

ベトナムにおいて知的財産権の譲渡契約を含む企業買収や事業提携を検討する際、デューデリジェンスは極めて重要なプロセスです。本判決が示す教訓から、日系企業は以下の項目を重点的に検証する必要があります。

第一に、対象企業の企業登録証明書の履歴を時系列で確認することが不可欠です。本件では、Công ty Tは2004年の設立時から2015年10月10日まで、一貫してC1氏が法定代表者として企業登録証明書に記載されていました。しかし、2013年9月10日の契約にはC氏が署名しており、この不一致が契約無効の主要な根拠となりました。企業登録証明書は定期的に更新されるため、契約締結時点における最新の証明書だけでなく、過去の履歴も確認し、代表権限に変更がないかを検証する必要があります。

第二に、定款の内容とその改正履歴を詳細に確認することが求められます。本件において重要な転換点となったのは、2010年の定款と2011年の定款の違いでした。控訴審裁判所は、2004年4月21日のQuyết định số 06/QĐ-BMおよび2010年4月5日に株主総会で承認された定款第48条第48.1項がC氏を法定代表者として規定していることを根拠に、C氏の署名を有効と判断しました。しかし最高人民裁判所は、2013年9月の契約締結時点では2010年定款は既に失効しており、2011年3月15日に承認された定款第25条がC1氏を法定代表者と規定していたため、2010年定款に基づく控訴審の判断は誤りであると指摘しました。このように、定款の最新版だけでなく、過去の改正履歴と各版の有効期間を正確に把握することが重要です。

第三に、取締役会議事録の内容と実際の契約内容の整合性を確認する必要があります。本件の2013年8月15日のCông ty T取締役会議事録には、「nhãn hiệu “Quê Tôi, hình”のchuyển quyền sử dụng(使用権譲渡)をCông ty T1に行う」と記録されていました。しかし実際に締結された2013年9月10日のHợp đồng chuyển nhượng quyền sở hữu công nghiệp số AS17-BINHMINHは、「quyền sở hữu(所有権)の譲渡」を内容としていました。最高人民裁判所は、取締役会が決議したのは使用権譲渡であり、所有権譲渡ではなかったこと、そしてC1氏に契約締結権限を委任したのであってC氏ではなかったことを明確に認定しました。ベトナム語においてquyền sử dụng(使用権)とquyền sở hữu(所有権)は法的に全く異なる概念であり、この区別が曖昧な契約書は重大なリスクを内包します。

利益相反取引規制の実務的運用

本判決において特に重要な法的論点の一つは、2005年企業法第120条が定める利益相反取引に関する規制の適用です。同条第1項c号は、「株主、法定代表者、取締役会メンバー、総取締役、取締役またはこれらの者の関連者と会社との間の契約または取引であって、契約または取引の価値が定款資本の35%以上または定款で規定するより小さい割合以上に相当する場合」には取締役会の承認が必要と規定しています。同条第2項は、この承認を得ずに締結された契約は無効となることを明確にしています。

本件においてC1氏はCông ty TとCông ty T1の両方の株式を保有していました。Công ty Tの創立株主はC1氏、P氏、C氏の3名であり、Công ty T1の創立株主はC1氏、X氏、L氏の3名でした。したがって、両社間の契約、特に商標という重要な知的財産権の譲渡契約は、利益相反取引に該当する可能性が高く、取締役会の承認が必要でした。しかし、2013年8月15日の取締役会議事録は使用権譲渡のみを承認しており、所有権譲渡についてはCông ty T取締役会の承認を得ていませんでした。最高人民裁判所は2005年企業法第120条第4項に基づき、この承認の欠如を契約無効のもう一つの独立した根拠として認定しました。

この法的判断は、ベトナムでグループ会社間の知的財産権移転を計画する日系企業に重要な示唆を与えます。親会社と子会社、または同一株主が支配する複数の会社間で知的財産権を移転する場合、たとえ無償譲渡であっても、適切な取締役会承認手続きを経ない限り、契約は後に無効と判断されるリスクがあります。特に、日本本社がベトナムの複数の現地法人に商標やノウハウをライセンスまたは譲渡する場合、各現地法人の株主構成と取締役構成を詳細に確認し、利益相反に該当する可能性がある場合には必ず取締役会承認を得る必要があります。

契約無効の時効に関する法的原則

本件において検討されたもう一つの重要な法的論点は、契約無効の主張に関する時効です。Công ty T1は、2013年12月30日にCục Sở hữu trí tuệ(知的財産庁)がGiấy chứng nhận đăng ký Hợp đồng chuyển nhượng quyền sở hữu công nghiệp số 6778/ĐKHĐSH(産業財産権譲渡契約登録証番号6778/ĐKHĐSH)を発行してから、Công ty Tが2019年6月21日に訴訟を提起するまで約5年半が経過しており、時効が成立していると主張しました。

最高人民裁判所はこの主張を明確に退けました。2005年民法第128条および第136条第2項(2015年民法では第123条および第132条第3項に相当)は、契約が法律の禁止規定に違反する場合や社会道徳に反する場合など、絶対的無効事由に該当する契約については、無効宣言を求める時効は制限されないと規定しています。本件において、C氏による契約締結は2005年企業法第120条第4項の強行規定に違反するものであり、したがって時効の適用はないと判断されました。

この法的原則は、知的財産権の権利関係の安定性に重大な影響を与えます。知的財産庁への登録が完了し、長期間にわたり異議が申し立てられなかった場合でも、基礎となる契約に法律違反の瑕疵がある場合、何年経過しても契約無効を主張できる可能性があります。本件では、2013年の契約締結から2024年の最高裁判決まで約11年が経過していますが、契約は無効と宣言され、知的財産庁の登録証も取り消されました。日系企業がベトナム企業から知的財産権を譲り受ける際には、登録の存在や経過年数だけでなく、基礎契約の適法性を慎重に検証する必要があります。

知的財産権譲渡における実務上の推奨事項

最高人民裁判所のBản án số 07/2024/KDTM-GĐT ngày 11/6/2024が示す法的原則に基づき、日系企業がベトナムで知的財産権の譲渡または取得を行う際には、以下の実務上の推奨事項を遵守することが重要です。

まず、契約交渉段階において、相手方企業の最新の企業登録証明書、定款、および株主名簿を取得し、法定代表者が誰であるかを正確に確認します。契約書には必ず法定代表者が署名するか、または法定代表者から明確な書面による委任を受けた者が署名する必要があります。本件のように、取締役であっても法定代表者でない者による署名は、適切な委任がない限り無効となるリスクがあります。

次に、相手方企業の取締役会議事録を入手し、知的財産権譲渡が正式に承認されていることを確認します。議事録の内容と実際の契約内容が完全に一致していることを検証し、特に使用権と所有権の区別、譲渡の対価、契約締結権限者などの重要事項について齟齬がないことを確認する必要があります。本件では、取締役会は使用権譲渡のみを承認していたにもかかわらず、実際には所有権譲渡契約が締結されたことが決定的な瑕疵となりました。

さらに、利益相反の可能性がある取引については、2005年企業法(現在は2020年企業法に改正)第120条の要件を満たすよう、取締役会の正式な承認を得ることが不可欠です。契約当事者の株主構成を詳細に分析し、共通の株主や取締役が存在する場合には、たとえ無償譲渡であっても適切なガバナンス手続きを経る必要があります。

最後に、知的財産庁への登録手続きにおいては、登録申請書類と基礎契約書類の完全な整合性を確保することが重要です。本件では知的財産庁がGiấy chứng nhận đăng ký Hợp đồng chuyển nhượng(譲渡契約登録証)を発行していましたが、基礎契約の無効が確定したため登録証も取り消されました。形式的な登録の完了だけでは権利の安定性は保証されず、実体的な契約の有効性が常に問われることを認識する必要があります。

ベトナム知的財産権の取得・管理に関する法的課題は複雑であり、個別の事業状況に応じた専門的な法的助言が不可欠です。Unilawは、日系企業のベトナムにおける知的財産権戦略について、実務経験に基づく具体的なサポートを提供しています。ご不明な点やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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