会社 規則策定と労働コンプライアンス:ベトナム労働法に基づく実務指針と裁判例の徹底分析
ベトナムで事業を運営する日本企業にとって、従業員との権利義務関係を規定し、組織の秩序を維持するための会社 規則(就業規則)は、労務管理における法的防壁として機能します。2019年労働法(第45/2019/QH14号)の施行により、就業規則の策定、登録、および運用のプロセスはより厳格化され、労働者保護の色彩が強まりました。適切な規則の不在や手続きの不備は、労働 紛争を引き起こすだけでなく、裁判において企業側が数億ドンから数十億ドンに及ぶ賠償責任を負う直接的な原因となります。本稿では、専門弁護士の視点から、ベトナム労働法に基づく適法な規則作成の要件と、実務上の陥りやすい罠を実際の裁判例とともに詳細に分析します。
1. 会社 規則の法的性質と作成・登録義務
ベトナム労働法第118条1項に基づき、すべての使用者は就業規則(会社 規則)を制定しなければなりません。この規則は、職場における規律を確立し、違反者に対して懲戒権を行使するための唯一の法的根拠となります。
1.1. 書面作成と登録の強制要件
従業員数が10人以上の企業には、書面による規則作成と、関係当局への登録が義務付けられています(第119条)。10人未満の場合は書面化が任意とされていますが、実務上、規律処分の正当性を担保するためには、規模に関わらず書面で作成し、労働者に周知しておくことが強く推奨されます。登録手続きは、規則の発行から10日以内に行う必要があり、当局による完全な書類の受理から15日後に法的効力が発生します(第121条)。
1.2. 実質主義の適用
ベトナムの労働法体系では、文書の名称よりも実態を重視する「実質主義」が採用されています。第13条に基づき、たとえ「協力契約」や「サービス契約」という名目であっても、仕事の内容、報酬、および一方の当事者による管理・監督が含まれる場合は、法的に労働関係とみなされ、会社 規則の適用対象となります。したがって、偽装的な個人請負形式をとっていても、労働法の強行規定を免れることはできません。
2. 会社 規則に記載すべき9つの必須事項
労働法第118条2項および政令第145/2020/NĐ-CP号に基づき、会社 規則には以下の項目を網羅しなければなりません。不足がある場合、規則の一部が無効とされ、懲戒処分が違法と判断されるリスクがあります。
- 労働時間および休憩時間:通常の労働時間、シフトの構成、始業・終業時刻、休憩時間、および休日に関する規定。
- 職場における秩序:勤務場所、就業時間中の移動範囲、服装、言動、および守秘義務。
- 労働安全および衛生:職場での安全規定、個人用保護具の使用、清掃、および消毒の義務。
- 職場におけるセクシュアルハラスメントの防止:セクハラの定義、防止策、被害者の保護プロセス、および処分の手続き。これは2019年法で新たに追加された極めて重要な項目です。
- 資産の保護、秘密の保持:企業の資産保護、営業秘密、技術秘密、および知的財産権の保護。
- 配転のケース:業務上の必要性に基づき、労働 契約 書に定められた仕事とは別の仕事に一時的に転換させる場合の条件と手続き。
- 労働規律違反および処分の形態:禁止行為の具体的リストと、それに対応する懲戒処分の種類(譴責、昇給停止、降職、解雇)。
- 物質的責任:備品の紛失や破損に対する損害賠償の基準と手続き。
- 処分の権限を有する者:規律処分を決定する権限を有する役職の明記。
3. 労働規律処分の厳格な適用ルールと禁止事項
会社 規則に違反行為が明記されていても、処分の実施にあたっては第122条に定められた原則を遵守しなければなりません。
3.1. 適正手続き(Due Process)の遵守
規律処分を有効にするためには、以下の手続きが不可欠です。
- 立証責任:使用者は労働者の過失を証明しなければなりません。
- 組織の参加:事業所における労働者代表組織(労働組合等)の参加が必要です。
- 弁明機会の付与:労働者に自己弁護の機会を与え、その過程を議事録に記録しなければなりません。
手続きに不備がある場合、内容が正当であっても、処分自体が「違法」とみなされます。
3.2. 禁止行為(第127条)
懲戒権の行使にあたり、以下の行為は厳格に禁じられています。
- 労働者の身体、名誉、尊厳を侵害すること。
- 規律処分の代わりに罰金を科し、または賃金をカットすること。
- 会社 規則、労働 契約 書、または労働法に規定されていない行為に対して処分を行うこと。
4. 裁判例から学ぶ実務上の教訓とリスク分析
実際の労働 紛争において、会社 規則の不備がどのように企業の敗訴に繋がるかを分析します。
4.1. 通知期間違反と巨額の損害賠償(判決1849/2019/LĐ-ST)
ホーチミン市人民裁判所で争われたフランス系企業の駐在員事務所代表V氏の事案では、企業側が45日前の事前通知義務を怠り、不十分な理由で解雇を行いました。企業側は「組織再編」を主張しましたが、会社 規則に基づく適正な人事評価や、法律上の「構造変更」の要件を満たしていることを証明できませんでした。結果として、裁判所は約70億ドン(給与、住宅手当、教育費、精神的補償を含む)という巨額の支払いを企業に命じました。この事例は、管理職に対しても会社 規則および法定手続きを厳格に適用しなければならないことを示しています。
4.2. 職務不達成の立証と客観的基準(判決02/2020/LĐ-PT)
外国人職員Aaron L氏が「能力不足」で解雇された事案において、裁判所は、解雇の正当性を証明するためには会社 規則内に具体的な評価基準(KPI)が明記され、かつ労働者の合意を得ていなければならないと判示しました。この事案では、継続的な指導記録(メールや議事録)が証拠として認められたため企業側が勝訴しましたが、基準が曖昧な場合、企業は極めて高い敗訴リスクを負うことになります。
4.3. 規則の適用範囲と株主の権利(判決39/2023/KDTM-PT)
Bia HN-TH社の事案では、会社 規則(内規)によって株主の資料閲覧権を制限できるかが争われました。被告側(企業)は規則に基づき「秘密保持」を理由に開示を拒否しましたが、裁判所は、会社 規則の適用対象は従業員であり、雇用関係のない株主に対してその制約を課すことは不適切であると判断しました。この判決は、会社 規則の法的射程範囲を明確に定義すると同時に、企業法と労働法の交錯点における慎重なリーガル チェックの必要性を浮き彫りにしました。
5. 日本企業が取るべき戦略的紛争回避措置
法的安定性を確保し、ベトナムでの持続的な事業成長を実現するために、以下のの活用を推奨します。
- 最新法令への適合(リーガル チェック):2019年労働法の新設項目(セクハラ防止規定等)が会社 規則に反映されているか、専門家による監査を定期的に受けるべきです。
- 具体的・客観的評価制度の導入:解雇の理由として「職務未達成」を挙げるためには、労働者と事前に合意した具体的なKPI(重要業績評価指標)の記録を保持することが不可欠です。
- プロセスの完全な文書化:注意喚起、指導、協議のプロセスはすべて書面(メール、議事録)で残します。口頭でのやり取りは、裁判所において証拠能力が著しく低いためです。
- 外国人労働者とワークパーミットの整合性:外国人の雇用 契約においては、会社 規則と労働許可証の期間・職位が完全に一致していなければなりません。不一致は契約の法的根拠を喪失させます。
- 労働調停プロセスの重視:賃金紛争等の特定の事案では、裁判の前に法定の調停手続きを経ることが必須要件となります(判決01/2016/LĐ-GĐT)。安易に裁判に持ち込むのではなく、調停段階での和解を目指す戦略も重要です。
6. 結論
ベトナムにおける会社 規則は、単なる行政手続きの一環ではなく、企業の経営資産を守るための最強の盾です。2019年労働法の運用は、労働者保護の観点から非常に厳格であり、企業側には常に高い「説明責任」と「立証責任」が課されています。判例が示す通り、些細な手続き上のミスや、会社 規則に基づかない恣意的な運用が、企業の存続を左右するほどの巨額の賠償に繋がるケースが頻発しています。
日本企業の皆様におかれましては、現地の法令と最新の判例動向を深く理解し、専門的なを通じて、コンプライアンスを徹底した透明性の高い労務管理体制を構築されることを強く推奨いたします。適法な就業 規則 作成と厳格な運用の継続こそが、ベトナムという成長市場での持続的な成功を支える唯一の道なのです。