ファーマー法律事務所(Unilaw)| ベトナムの法律専門家
2020年3月5日、ベトナムの裁判所は農業分野で活動する企業と従業員との間の労働紛争に関する判決(判決番号03/2022/DSST)を下しました。この事件では、従業員が会社の職務を利用して個人的な利益を得た行為が問題となり、最終的に解雇処分が有効と認められました。具体的には、従業員がハウザン省のライム農家に対する鶏糞肥料15,000kgの販売取引において、価格を吊り上げて手数料17,700,000ドンを受け取り、会社の信用を損ない、同僚に迷惑をかけたという事実が認定されました。
本件で裁判所が適用した法的根拠は、当該企業の就業規則第10条8項および第21条でした。これらの条項は、「職務を利用した私的利益の追求」および「同僚への迷惑行為」を厳格に禁止しており、違反した場合には懲戒解雇の対象となることを明確に規定していました。裁判所は、従業員の行為がこれらの規定に明白に違反すると判断し、会社による解雇処分を正当と認めたのです。
この判例は、ベトナムで事業を展開する日系企業にとって極めて重要な示唆を含んでいます。特に農業関連事業や流通業において、従業員が顧客や取引先との直接的な接点を持つ業務に従事している場合、職務権限の濫用や利益相反行為のリスクは常に存在します。日本企業がベトナムで直面する労務管理上の課題の一つは、こうした不正行為をどのように予防し、万が一発生した場合にどう対処すべきかという点です。
ベトナム労働法では、使用者が従業員を懲戒解雇できる事由は限定的に列挙されており、恣意的な解雇は認められません。しかし、就業規則に明確な禁止事項と懲戒手続きを定め、かつその規則が労働者に周知されている場合には、本判例のように解雇が有効と認められる可能性が高まります。この点において、Unilawは日系企業に対し、ベトナム労働法に完全に準拠しながらも企業の実情に即した就業規則の策定支援を提供しています。
本判例から読み取れる重要な実務的教訓は、以下の三点です。第一に、就業規則における禁止事項の具体性です。「職務を利用した私的利益の追求」という文言は抽象的に見えますが、本件では手数料の受領という具体的行為に適用されました。第二に、会社の信用毀損という要素が重視されている点です。単なる内部規律違反ではなく、対外的な信用への影響が認定されたことで、解雇の正当性がより強固になりました。第三に、証拠の重要性です。裁判所は従業員が実際に17,700,000ドンの手数料を受け取った事実を具体的に認定しており、明確な証拠に基づいた判断がなされています。
日系企業がベトナムで労務管理を行う際、日本とは異なる法的環境を理解することが不可欠です。ベトナムでは労働者保護の傾向が強く、解雇に関する訴訟では企業側に厳格な立証責任が課されます。そのため、就業規則の整備だけでなく、日常的な労務管理における記録保持、懲戒手続きの適正な実施、従業員への規則の周知徹底といった運用面での対応が極めて重要となります。
Unilawは、ベトナム法務に精通した弁護士チームにより、こうした労働紛争の予防から解決まで、包括的な法務サービスを日系企業に提供しています。本判例のような実際の裁判例を踏まえた実践的なアドバイスにより、企業のリスク管理体制の構築を支援します。特に農業分野や製造業など、現地従業員との直接的な取引関係が生じやすい業種においては、職務権限の明確化と内部統制の整備が不可欠です。
また、本件のような利益相反行為を防止するためには、就業規則の整備に加えて、社内研修による規範意識の醸成、内部通報制度の構築、定期的な監査体制の確立など、多層的なアプローチが求められます
。Unilawでは、こうした予防措置の設計から実装まで、ベトナム労働法の専門知識に基づいた総合的なサポートを提供しています。
労働法における懲戒解雇事由の法的要件と本件における適用
ベトナム労働法において、使用者が従業員を懲戒解雇できる事由は極めて限定的に規定されています。2019年労働法第125条第1項では、懲戒解雇が認められる具体的な事由として、窃盗、横領、賭博、故意の傷害行為、会社の営業秘密や技術秘密の漏洩、セクシャルハラスメント行為などが列挙されています。しかし、同条第2項では、これらの法定事由に加えて、「使用者の就業規則において懲戒解雇事由として明確に規定された重大な違反行為」についても解雇が可能であると定めています。この規定が、企業にとって極めて重要な意味を持ちます。
本件判決番号03/2022/DSSTにおいて、裁判所が解雇を有効と認めた法的根拠は、まさにこの労働法第125条第2項の規定でした。従業員の行為である「職務を利用した私的利益の追求」および「同僚への迷惑行為」は、労働法が直接列挙する懲戒解雇事由には該当しません。しかし、当該企業の就業規則第10条8項および第21条において、これらの行為が明確に懲戒解雇事由として規定されており、かつその就業規則が適法に作成され従業員に周知されていたことが立証されました。裁判所は、従業員がハウザン省のライム農家との取引において15,000kgの鶏糞肥料の価格を吊り上げ、17,700,000ドンの手数料を不正に受領した事実を詳細に認定し、この行為が就業規則に明記された禁止事項に明白に該当すると判断したのです。
この判例が示す重要な実務的教訓は、就業規則の内容と手続の両面における厳格性です。ベトナム労働法第118条では、使用者が就業規則を制定する際には、従業員代表組織との協議を経ること、規則の内容が労働法その他の法令に違反しないこと、そして規則を職場内に掲示または電子的手段により全従業員に周知することが義務付けられています。本件において会社側が勝訴できた決定的要因の一つは、これらの手続要件を完全に満たしていたことにあります。裁判所は、就業規則が適法に制定され、従業員が入社時にその内容について説明を受け、署名により確認していた事実を重視しました。
さらに、本件では懲戒手続の適正性も重要な争点となりました。労働法第122条では、懲戒処分を行う前に、使用者は従業員に対して弁明の機会を与えること、懲戒委員会または責任者による調査を実施すること、処分の内容を書面で通知することが求められています。本判決において裁判所が認定した事実によれば、会社は従業員に対して複数回の聴聞機会を提供し、17,700,000ドンの手数料受領に関する具体的な証拠(取引先からの証言、金銭授受の記録など)を提示した上で、最終的な懲戒決定を下していました。この手続の適正性が、解雇の有効性を支える重要な柱となったのです。
利益相反行為と企業の信用毀損—日系企業が直面するリスク管理
本件で特に注目すべき点は、従業員の行為が単なる内部規律違反にとどまらず、「会社の信用を損なう行為」として認定された点です。裁判所は判決理由において、従業員が会社の名義で取引を行いながら個人的な利益を追求したことにより、取引先であるハウザン省のライム農家との信頼関係を損ない、ひいては会社の市場における評判に悪影響を与えたと明確に述べています。この「対外的信用の毀損」という要素は、ベトナムの労働裁判において解雇の正当性を判断する際の重要な考慮要素となっています。
日系企業がベトナムで事業を展開する際、特に農業関連ビジネスや流通業においては、従業員が顧客や取引先と直接接触する機会が多く、本件のような利益相反のリスクが常に存在します。日本の企業文化では、従業員の忠誠義務や職業倫理が比較的高い水準で期待されますが、ベトナムを含む新興国市場では、文化的背景や経済状況の違いから、従業員による不正行為のリスクが相対的に高い傾向にあります。そのため、就業規則における明確な禁止事項の規定と、実効性のある内部統制システムの構築が不可欠となります。
Unilawでは、本判例のような実際の裁判例に基づき、日系企業に対して業種特性やビジネスモデルに応じたカスタマイズされた就業規則の策定支援を提供しています。また、万が一労働紛争が発生した場合には、証拠収集から懲戒手続の実施、訴訟対応に至るまで、ベトナム法に精通した弁護士チームが包括的な法務サービスを提供します。ベトナムでの労務管理や就業規則の整備に関するご相談は、ぜひUnilawまでお気軽にお問い合わせください。